[Vol.2090] 中長期の柱「中央銀行」の買いは継続中

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。60.31ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。4,012.70ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。26年01月限は14,995元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年12月限は460.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2451.9ドル(前日比1.50ドル縮小)、円建てで12,916円(前日比2円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月7日 18時26分時点 6番限)
20,116円/g
白金 7,200円/g
ゴム 313.9円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY金先物 月足 単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 月足 単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「中長期の柱『中央銀行』の買いは継続中」
前回は、「感覚に頼らない『七つのテーマ』を再確認」として、ドル建て金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2025年)を、確認しました。

今回は、「中長期の柱『中央銀行』の買いは継続中」として、中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(2024年まで)を、確認します。

前回の「七つのテーマ」の中で、中長期のテーマに挙げた「中央銀行」について述べます。以下の通り、中央銀行による金(ゴールド)の買い越し量の推移は、近年、非常に高水準です。2024年は統計史上最大となりました。

1990年代や2000年代の前半の「株と金(ゴールド)は逆相関」と呼ばれた時期において、中央銀行の買い越し状況はマイナス、つまり売り越しでした。それが、2010年に買い越しに転じ、現在に至っています。

世界的な金(ゴールド)の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は、2018年から「中央銀行調査」を実施しています。調査項目をWGCが作成し、英国に拠点を置く世界規模の調査機関のYouGov(ユーガブ)の協力のもとで実施しています。

近年の調査では、多くの中央銀行が金(ゴールド)の保有量を増減する動機を問う質問(複数選択可)において、危機時のパフォーマンス、長期的な価値保全、インフレ・ヘッジ、効果的なポートフォリオの構築、地政学的リスクに対する分散策、デフォルト・リスクがない、歴史的ポジション、などを選択しています。

特に先進国の中央銀行は歴史的ポジション、新興国の中央銀行は危機時のパフォーマンスを選択する傾向が見られます。また、先進国の中央銀行はほとんど選択しないものの、新興国の中央銀行のいくつかは、国際通貨システムの変化への予期、制裁への懸念、金(ゴールド)に対する国民の意識、などを選択する傾向もあります。

10月30日にWGCが公開した四半期のレポートで、2025年第3四半期の中央銀行の買い越し量が、高水準を記録したことが分かりました。また、WGCは2025年第4四半期も高水準を維持し、2022年から続いている年間での高水準の傾向を2025年も維持する見込み(750から900トン)であると、述べました。

中央銀行の買いが旺盛な状態が続いている背景には、以前の「[Vol.2086] 『外交』に真の物価高対策あり」で述べた「世界分断」が深く関わっていると考えられます。

世界分断は、「七つのテーマ」のうち超長期のテーマである「有事(非伝統的)」に直接的に結びつく要因です。世界で分断が深まることで、非西側の資源国が資源を武器として利用し、世界全体で資源の需給バランスが引き締まり、長期視点の高インフレ傾向が強まっています。

また、分断が深まることで戦争が勃発したり、悪化したりしやすくなっています。長期視点の高インフレも、戦争の勃発や悪化も、中央銀行が長期視点で金(ゴールド)の保有高を増やす強い動機になり得ます。

こうした有事(非伝統的)を認識した中央銀行の買いは、長期視点の根深い世界分断を背景に、今後も継続し、金(ゴールド)相場を長期視点で底上げし続けると、筆者は考えています。

揺るぎにくい「土台」の上で、短期的な上下を伴いながら、金(ゴールド)相場は近い将来、5,000ドルに到達する可能性があるとみています。

「七つのテーマ」という体系化された分析手法を採用するからこそ、長期視点の値動きを分析する糸口を見つけることができます。有事だけ、逆相関だけ、といった感覚的な旧来の考え方で分析をしようとすればするほど、「高くて買えない」という結論が出てしまいます。

「価格の水準が高すぎて買えない」と思われる方こそ、感覚による分析から離れ、「七つのテーマ」に基づいた分析を行うことを、お勧めします。

図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(2024年まで) 単位:トン
図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(2024年まで) 単位:トン
出所:ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の資料を基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。