原油市場、中長期的には上値リスクが大きい

著者:菊川 弘之
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 30日にトランプ米大統領とプーチン露大統領が電話協議し、石油市場の安定に向けて会談を実施することで合意したことは支援要因。極端な原油安や石油産業の崩壊は受け入れられないとの共通認識を持っており、「OPECプラス+米国」、もしくは、「米国+ロシア」など、新たな原油価格調整の枠組みが生まれたり、サウジが表明しているほど、4月以降に増産しなかった場合、原油価格は下値を固めていくだろう。

 今後の商品市場で注意すべきは、コロナウイルス感染拡大による需要減少だけでなく供給リスクであろう。ロシア中央銀行が4月から金購入を停止すると発表した。原油下落による財政難と、コロナウイルス感染拡大による金現物の輸送の不確実さが理由だ。南アでは非常事態が宣言され、白金鉱山が閉鎖(3月26日~4月16日予定)、ゴム産地のタイでも全土に非常事態が宣言され、南米では穀物輸出に障害が出ている。需要悪化を織り込みながら大きく値位置を下げた銘柄は、供給リスク思惑で跳ね上がるリスクを秘めている。WHO=世界保健機関も、次なる危機として、商品の生産国とも重なる新興国・発展途上国リスクを挙げている。中東でもコロナウイルス感染は拡大していることに加えて、トランプ米大統領は1日、イランやその支援を受ける勢力が、イラクに駐留する米軍や米国の施設に「奇襲攻撃」を仕掛ける可能性があるとの見方を示し、攻撃を実行すればイランは「多大な報い」を受けるだろうと警告している。株価が就任時以降の上げ幅をすべて失ったトランプ大統領だが、危機の時には現職大統領の支持率が上昇する傾向があるが、コロナウイルスに対する発言がコロコロ変節することもあり、今のところ支持率は上がっていない。景気後退から株価がさらに下落していくようなら、内政不満を国外に向けさせる可能性も否定できないだろう。現段階で中東の地政学リスクを全く織り込んでいない水準の原油市場は、下値リスクよりも上値リスクの方が高いと考える。
 

 

このコラムの著者

菊川 弘之(キクカワ ヒロユキ)

NSトレーディング株式会社 代表取締役社長 / 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)。
GelberGroup社、FutureTruth社などでのトレーニーを経験後、商品投資顧問会社でのディーリング部長等経て現職。
日経CNBC、BloombergTV、ストックボイス、ラジオ日経など多数のメディアに出演の他、日経新聞、時事通信などに連載、寄稿中。
また、中国、台湾、シンガポールなどで、現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。

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