マイナスの原油価格に思う ~その2~

著者:近藤 雅世
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 先週のブログで原油価格がマイナスになった原因を書いたが、5月19日を目指して再びマイナス価格になる可能性があると思っている。5月19日とはニューヨーク商品取引所における6月限の最終取引日である。

 4月3日時点の米国における石油貯蔵設備の使用状況は4月9日のEIA(米エネルギー情報局)が公表しているがこれを見るとオクラホマ州クッシングの石油貯蔵能力と使用率は75.8%であった。これを見た時、「何だまだ25%あるではないか」と思ってしまったが、市場では5月末にはゼロになるほど在庫の増加量が急速だということらしい。
 

 
 だから、近い将来新型コロナウイルスが消滅したら、経済が再開して、人々の移動が始まり、航空燃料やガソリン需要が一気に回復して原油やガソリン価格は反騰するということに賭けたファンドや個人投資家は、買ってしまった原油ポジションを持て余し始めている。反対売買すると大きな損害を被り、かつ高騰している石油貯蔵設備の保管料を考えると、あるいは保管場所を探して世界を駆け巡ることを考えれば、赤字でも、金を払ってでも損失を止めた方が良いと多くの買い手が思い始めている。新たに買う人はほとんどいないという状況が起こっているということであろう。コロナ終焉を狙った投機家は6月以降のポジションも保有していると思われる。原油生産者は急いで油田を閉じているが、原油生産の減少は石油精製設備の稼働率を落とすようにはうまく行かないと思われる。溢れかえった石油が保管場所を探して、あるいは投機家はつかんだババを誰かに渡すために多くの売りが出るのではないだろうか。

 サウジアラビアは、OPEC+の3月6日の会合でロシアと対立して増産を決定した時、シンガポールのタンカー市場で、多くのVLCC(大型石油タンカー)を確保した。米国に対抗するために、中国やインドに安売り攻勢をかけようと思ったためだ。ところが、中国とインドの国内石油需要が新型コロナウイルスの影響で急減して、Wall Street Journalによれば、現在世界のスーパータンカー750隻のうち80隻が、輸送目的ではなく原油の貯蔵に利用されているという。また商品データ会社Kplerによると、洋上保管されている原油は4月19日までの週に+2100万バレル増加して1億4760万バレルに達し、世界の在庫増加分の大部分を占めているとのこと。原油を買った人は反対売買をしなければ、どこかに買った原油を保管する必要があるが、ますます保管場所が減少し、パイプラインはいよいよ生産地まで満杯になりつつあるようだ。
 

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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