デリバティブ投資手法の進化―破壊と創造の歴史―【6】 2001年 エンロン(前編)

著者:MINKABU PRESS

◆総合エネルギーIT企業


米総合エネルギーIT企業大手のエンロンは、1996年から6年連続で米ビジネス雑誌「フォーチュン」の「アメリカで最も革新的な企業」に選ばれるなどそのビジネスモデルは高い評価を受け、まさに米国資本主義を象徴する存在でした。2000年度売上高は1110億ドルと全米7位、世界で16位の規模を誇る、社員2万1000人を擁する巨大企業でしたが、あろうことか2001年に大規模な不正会計が発覚して破綻に追い込まれてしまいます。当時としては全米最大規模の企業倒産です。はたして超優良企業と謳われた巨大企業に何が起こったのでしょうか?

同社は元々、米テキサス州ヒューストンで天然ガスのパイプラインなどを運営していた数社が合併して誕生したノーザン・ナチュラル・ガスがベースになっています。1985年にテキサス州の同業ヒューストン・ナチュラル・ガスと合併。全米の海岸と国境線を結ぶ一大パイプライン網を保有する大企業となり、社名をエンロンに変更しました。

同社に飛躍的な発展をもたらしたのは、1990年代に推進された米国の電力自由化政策が大きなきっかけとなっています。これによって従来の天然ガスや石油、電力といったエネルギー供給を主力とした事業に加えて、水や石炭、アルミニウム、紙のような取引できるものはもちろん、インターネット用電波帯域、信用リスクや天候など、売買できるとは思われていなかったものまでを対象にした新しい市場を創り出しました。

そのビジネスモデルですが、取扱商品を標準化して取引するマーケットを「エンロン・オンライン」と称するサイト上に構築し、売買を仲介するだけでなく、自らがマーケットメーカーとなって売買を主導するというものでした。具体例を同社が1997年に初めて手掛けた「天候デリバティブ」でみてみましょう。
 

◆天候デリバティブ


アパレル業者が手掛ける冬物衣料は寒さの厳しい冬によく売れる一方、暖かい冬になると例年より売れなくなってしまう恐れがあります。そのため、アパレル業者は天候が大変気になり、こうした浮き沈みを回避したいと考えています。そうしたアパレル業者に対して、エンロンは暖冬になれば一定の補償料を支払うオプションを販売します。

また、屋外レジャー施設を運営する業者の場合、寒さが厳しい冬になると来場者数が例年より減ってしまう恐れがあります。そうした屋外レジャー施設業者に対して、エンロンは厳冬になれば一定の補償料を支払うオプションを販売します。もしくはアパレル業者と屋外レジャー施設との間に入ってデリバティブ取引を仲介します。



もちろん、実際の取引内容は上に挙げた例のような単純なものではなく、キャップ(補償料の上限付き)やフロア(補償料の下限付き)、スワップ(上の例で言えばアパレル業者と屋外レジャー施設業者のキャッシュフローの交換)やカラー(補償料の上下限付き)など、さまざまな条件を付けてリスクヘッジしていたようです。

このようにエンロンは単なる大手エネルギー企業から、取引所や証券会社、保険会社などの機能を兼ね備えたソリューション・サービスIT企業へと変貌することで、2001年に同社が打ち出した「世界に冠たる企業となる」というビジョンを目指し、その実現へと近づいていきます。
 

◆ロビー活動


 エンロンはロビー活動にも余念がありませんでした。まずは元同業で地元テキサス州の知事を務めていたジョージ・ウォーカー・ブッシュ(後の第43代米大統領)や、その父親であるジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ元米大統領(任期1989年1月20日~1993年1月20日)への献金に始まり、最終的には米連邦上院議会の議員の約7割に対して献金を行っていたようです。

 特にエネルギー業界とのつながりが深い共和党への献金が全体の4分の3を占めていましたが、民主党にも同社の献金は広く行き渡っていたと言われています。ばら撒いたのは献金だけでなく、エンロン株や同社関連企業の役職にまで至り、2001年に誕生したブッシュ政権では高官がエンロンの最高幹部と区別がつかないほど密接であったと言われています。このようなロビー活動によりエンロンは、自社に有利な政策を引き出していったと考えられています。

 さらにエンロンの社内には、こうしたロビー活動と有利な政策との費用対効果を分析するコンピュータープログラムまで存在しており、「ザ・マトリクス」と呼ばれていたようです。費用対効果の観点から言えば共和党への献金が効果的と考えられますが、実際のところ同社に大きく貢献したのは、民主党のウィリアム・ジェファーソン・クリントン米大統領(通称ビル・クリントン、任期1993年1月20日~2001年1月20日)時代に行われた10億ドルの補助金付き融資だったとされています。

 しかし、良い時代は長く続きませんでした。2000年のITバブル崩壊とともに米国経済は減速し始め、エネルギー業界にも陰りが見え始めます。また、インドやブラジルといった海外で展開していた事業などにおいても採算の悪化や損失といった問題が散見され始めます。加えて、同社の情報開示の悪さが株価下落につながっていきます。同社の高収益体質については以前から“謎”と言われていましたが、これらの問題が表面化することによって情報開示の悪さが信頼低下を招き、更に株価が下落するという悪循環が動き始めます。(後編につづく)

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