[Vol.925] トウモロコシ相場で3度目のパラダイムシフト!?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米国の主要株価指数の反発などで。52.44ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,852.85ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。21年05月限は14,405元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年03月限は335.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで760.35ドル(前日比8.45ドル縮小)、円建てで2,598円(前日比12円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(1月29日 19時44分頃 先限)
6,245円/g 白金 3,647円/g
ゴム 235.2円/kg とうもろこし 27,260円/t

●シカゴトウモロコシ先物(期近) 日足 (単位:ドル/ブッシェル)


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「トウモロコシ相場で3度目のパラダイムシフト!?」

前回は、「“分断”が生んだバイデン大統領は、分断をなくすことができるのか?」として、昨年行われた米大統領選挙において、どの候補者がどれだけ都市部で勝利したのかに注目しました。

今回は、「トウモロコシ相場で3度目のパラダイムシフト!?」として、バイデン大統領の施策が与える長期的視点での、トウモロコシ相場への影響について、筆者の考えを書きます。

シカゴトウモロコシ先物市場では、過去60年間で2度、“パラダイムシフト”が起きています。均衡点の劇的な変化を意味するパラダイムシフトは、さまざまな分野で用いられる言葉ですが、市場という分野では、“長期的で大規模な底値水準の切り上げ”を指す場合があります。

以下のグラフのとおり、1973年前後と2006年前後に、水準切り上げ(パラダイムシフト)が発生したことが分かります。これらの2度のパラダイムシフトの背景について、1973年前後は、先進国の生活水準向上による家畜のエサ消費量の恒常的な水準切り上げ、2006年前後は、新興国の生活水準向上による家畜のエサ消費量および、環境配慮の動きの強まりによるバイオエタノール消費量の恒常的な水準切り上げと考えられます。

2つの共通点は、消費量の“恒常的”な増加です。パラダイムシフトは、大規模な干ばつなどではなく、食生活や環境配慮などの、文化や思想、政策の大規模な変化がきっかけで発生すると考えられます。きっかけは、自然ではなく人間、ということです。

1月20日(水)、バイデン氏が就任演説をし、正式にバイデン新政権が発足しました。報道では、バイデン氏の方針を“大転換”とするものが散見されます。ただ、パリ協定への復帰、原油パイプラインの建設許可取り消しなどは、オバマ政権の“回帰”と言えると、筆者は考えています。

オバマ政権時、米国国内のトウモロコシ由来のバイオエタノールの生産・消費量が大きく増加しました。この増加でエタノール消費量は、はじめて、ガソリンへの混合率の上限である10%、いわゆる “ブレンドの壁”に達しました。

トランプ政権時は、燃焼効率が良い内燃機関をもつ自動車が普及したことなどで、ガソリン消費が頭打ちとなり、それに伴い、エタノールの生産・消費は頭打ちとなりました。2020年には、新型コロナの感染拡大が起きてガソリン需要が減少し、エタノールの生産・消費は減少しました。

この点を打開すべく、2019年ごろから、エタノールのガソリンへの混合率の上限を15%まで引き上げること検討されはじめましたが、エタノールとガソリンはトレードオフ(どちらかを立てればどちらかが沈む、相反する関係)の面があるため、石油業界と密接とされるトランプ政権のもとでは、この議論は目立った進展はみられませんでした。

バイデン大統領は、先述のとおり、オバマ政権時代への回帰という側面もあり、今後、エタノールの生産・使用を推奨する可能性があると、筆者は考えています。10%の上限を15%に引き上げ、“ブレンドの壁”を打ち破る策が講じられれば、人間起因の、トウモロコシの需給構造の変化(3度目のパラダイムシフト)が起きる可能性があると、筆者は考えています。

図:シカゴトウモロコシ先物価格(期近 月足 終値) 単位:セント/ブッシェル


出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。