NYダウ(後編)―投資対象として株価指数を考える【6】―

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◆S&P500とは


 前回のNYダウ(前編)ではNYダウと日経平均株価の違いについて比較しましたが、今回は米国の代表的な株価指数であるS&P500(スタンダード・アンド・プアーズ500種指数)と比較してみましょう。S&P500はNYダウと同様にS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスによって算出され、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場している普通株式(ETFやETNは対象外ですが、REITは対象となります)などの中から、米国の主要産業を代表する500社により構成されている指数です。


出所:refinitiv

 S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのファクトシート(概要報告書、2021年3月31日現在)によると、S&P500は「米国大型株の動向を表す最良の単一尺度として広く認められている株価指数」で「米株式市場の時価総額の約80%をカバー」しており、「この指数に連動する金融商品の運用総額は約4兆6000億ドルに及ぶ」とあります。

 1ドル=110円とすれば、4兆6000億ドルは約506兆円に相当します。本シリーズの第1回で取り上げた東証株価指数(TOPIX)に連動する金融商品の運用総額は60兆円程度ですので、まさに桁違いの大きさと言えるでしょう。

 S&P500の算出方法は、TOPIXと同様に浮動株調整後の時価総額加重平均ですので、NYダウとS&P500の関係は、日経平均株価とTOPIXの関係に似ており、その違いも同様の傾向が認められます。
 

◆NYダウとS&P500との違い


 S&P500の業種別ウェートは以下の通りです。情報技術の26.89%を筆頭にヘルスケア12.82%、一般消費財・サービス12.43%と続きます。最もウェートの大きいセクターが情報技術である点はNYダウと同様ですが、そのウェートが20.84%であるNYダウよりもS&P500の方が偏っているようです。

 また、ヘルスケアと一般消費財・サービスが2番手、もしくは3番手となる点もNYダウと同様ですが、S&P500に占める業種ウェートはともに12%台と、NYダウ(ヘルスケア17%台、一般消費財13%台)の方が高い傾向にあります。このほか、NYダウには公益事業や不動産といったセクターは含まれていませんが、S&P500にはウェートは小さいながら含まれているといった違いがあります。


出所:SPDR S&P 500 ETFより作成(2021年4月1日現在)

 NYダウとS&P500との違いは業種別ウェートだけでなく、構成銘柄ウェートにも表れています。S&P500の構成銘柄ウェート上位10社は以下の通りです。NYダウの構成銘柄ウェート上位10社と比較すると、S&P500では上位10社の各ウェートは低いように見えます。しかし、500銘柄の中のウェートですから、1銘柄当たりの平均ウェートは0.2%(=100%÷500銘柄)になります。1銘柄当たりの平均ウェートが約3.33%であるNYダウよりは偏りが大きいと言えるでしょう。

 また、表ではS&P500の構成銘柄ウェート上位10社の中で、NYダウ採用銘柄を太字にしましたが、重なる銘柄は4銘柄しかありません。もっとも、本稿執筆時の参照データでは、TOPIXの構成銘柄ウェート上位10社の中で、日経平均株価の構成銘柄ウェート上位10社にランキングされている銘柄はソフトバンクグループだけです。それを考えると、NYダウとS&P500の関係は、日経平均株価とTOPIXの関係に比べて、より似ている株価指数であると言えるでしょう。


出所:SPDR S&P 500 ETFより作成(2021年4月1日現在)
※銘柄名の太字はNYダウ採用銘柄

 ちなみに、銘柄名の末尾にA株やB株、C株などと記載されているのは、デュアルクラスとかマルチクラスなどと呼ばれている種類株の発行形式を指します。ただしA、B、Cそれぞれにどのような条件が付随しているのかは、発行会社によって異なります。

 例えばフェイスブックの場合、クラスA株の議決権はクラスB株の10分の1しかありません。また、アルファベット(傘下にグーグルを擁する持株会社)の場合、クラスA株には議決権がありますが、クラスC株に議決権はありません。アルファベットにはクラスB株もあり、クラスA株の10倍の議決権が与えられていますが、市場には流通していません。そして、バークシャー・ハサウェイ(伝説的な投資家であるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社)の場合、クラスB株は発行価格がクラスA株の1500分の1、議決権はクラスA株の1万分の1となっています。
 

◆NYダウへの投資・先物


 NYダウへの投資を行う場合、銘柄別ウェートに従って全30銘柄を買う方法もありますが、通常は先物やETF(上場投資信託、Exchange Traded Fund)などを利用するのが一般的と考えられます。

▼基礎から学ぶ先物取引初心者入門
https://fu.minkabu.jp/beginner

 株価指数先物については、上記のURLより「基礎から学ぶ先物取引初心者入門」をご参照ください。東京証券取引所(東証)に上場しているNYダウ先物に関する記述はほとんどありませんが、株価指数先物を売買する上での基本や注意点は他の株価指数先物と大きく変わりません。とはいえ、取引対象が異なるわけですから、以下に日経225先物と制度概要を比較した表を示しました。

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。