[Vol.1009] 金・銀・原油・温室効果ガス排出権は上昇中

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。69.16ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,871.80ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。21年09月限は13,365元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年07月限は445.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで720.35ドル(前日比9.55ドル拡大)、円建てで2,531円(前日比8円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月4日 18時33分頃 先限)
6,622円/g 白金 4,091円/g
ゴム 242.0円/kg とうもろこし 35,580円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「金・銀・原油・温室効果ガス排出権は上昇中」

前回は、「「お祭り中断」はビットコインの急落開始が一因」として、5月上旬を機に、一時的にコモディティ(商品)の一部銘柄が調整色を強めていることについて述べました。

今回は、「金・銀・原油・温室効果ガス排出権は上昇中」として、一部銘柄が調整色を強める中、上昇している金、銀、原油、温室効果ガス排出権について書きます。

以下のグラフのとおり、金は、この1カ月強、一貫して上昇しています。以前の「金価格上昇要素「有事のムード」は継続か」述べたとおり、新型コロナ変異株の感染が拡大していることで「有事のムード」が強まり、「資金の逃避先」需要が増加していることが一因とみられます。

また、複数のコモディティ(商品)価格が調整局面にあり、一時的に強まった物価高(インフレ)のムードが落ち着きつつあるため、米国の金融政策がすぐに引き締め方向に向かわない可能性があると、筆者は考えています。このため、金融緩和がきっかけで発生している「代替通貨(ざっくり言えば“ドルの代わり”)」の側面からの金相場への上昇圧力が、目先も継続する可能性があります。

さらには、米国の長期金利の目安になる米10年債利回りに頭打ち感が出ていることや、ドル指数が下落していること、(代替通貨の側面を持つ通貨として競合する)ビットコインが弱含んでいることなどにより、複数の経路で「代替通貨」の側面から、金に注目が集まっていると考えられます。

銀は、金よりも変動率がやや高い傾向がありますが、特に銀特有の強い材料(例えば、2021年1月下旬にSNSを介して発生した、米国の個人投資家の共闘など)がない限り、金に連動する(価格が動く際、同じような山と谷を描く)傾向があるため、この1カ月強、金とともに上昇しています。

温室効果ガス排出権は、底値を切り上げながら、上昇しています。世界的な「脱炭素」ブームの中、温室効果ガスを排出せざるを得ない国や企業が、そうでない国や企業との間で炭素の排出権を融通する需要が高まる観測から、排出権の国際価格が史上最高値近辺で高止まりしています。しばらくの間、パリ協定で宣言した排出目標を達成するために、企業や国は、排出権を融通し(売買し)、「実質削減」を目指すと考えられます。

同協定を順守しながら、豊かな生活を維持したり経済活動を継続したりするためには、温室効果ガスを排出しながら、排出しなかったことに(実質ゼロに)しなくてはならず、ここに、温室効果ガス排出権の売買のきっかけが生まれます。この点が、温室効果ガス価格の上昇の一因とみられます。

原油については、OPECプラス(サウジやイラクなどのOPEC加盟国13カ国と、ロシアやカザフスタンなどの非OPECの主要産油国10カ国、合計23カ国)が実施している原油の減産が続く中、米国で、新型コロナショック(同ウイルスがパンデミック化したことをきっかけに2020年3月に発生した、ジャンルを問わない多数の主要相場の急落)により、複数の主要なシェール業者が破綻して生産力が低下し、世界全体の需給バランスが供給過剰になりにくくなっていることが、上昇の一因とみられます。

次回以降、原油価格の動向を考える上で重要な、米国の原油生産の状況について書きます。

図:金・銀・原油・温室効果ガス排出権の価格推移


出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。