[Vol.1043] 世界の石油消費の回復・米国の原油生産横ばいは続く

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。71.70ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,809.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。21年09月限は13,185元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年09月限は439.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで744.15ドル(前日比3.75ドル拡大)、円建てで2,632円(前日比3円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(7月26日 19時13分頃 先限)
6,410円/g 白金 3,778円/g
ゴム 213.5円/kg とうもろこし 33,810円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「世界の石油消費の回復・米国の原油生産横ばいは続く」

前回は、「OPECプラスは材料の一つに過ぎない」として、OECD石油在庫の動向について、書きました。

今回は、「世界の石油消費の回復・米国の原油生産横ばいは続く」として、世界の石油消費量と米国の原油生産量の動向について、書きます。

以下のグラフは、世界の石油消費量の推移です。EIA(米エネルギー情報局)は、新型コロナのパンデミック化で急減した世界の石油消費は、2021年12月に9割程度回復、そして徐々に回復が進み、2022年後半にほぼ全回復するとの見通しを示しています。

以前の「OPECプラスの原油生産は22年にコロナ前に戻る」で述べたとおり、OPECプラスの原油生産量は、2022年後半に新型コロナがパンデミック化する前の水準に戻る見通しです。世界の石油消費量の見通しと、合致します。

OPECプラスは、世界の石油消費量が回復することを見込んで、回復に合わせて生産量を調整しようとしていると、考えられます。単に、原油価格をつり上げたいのであれば、消費の回復に合わせて減産を強化する方が、効果があるでしょう。

各種データからは、OPECプラスは世界の消費回復を支え、生産者としての責任を果たそうとしているように、見えます。OPECプラスがあくまで、消費回復に応じて生産を増加させるのであれば、過剰在庫が再び積み上がることはなさそうです。

また、供給面で重要な米国の原油生産量は、サウジとロシアを上回る規模で、世界No1です。シェアは米国が14.8%、サウジが12.4%、ロシアが13.4%です。(2021年6月時点 筆者推定)

新型コロナショック後の最悪期となった2020年5月以降、米国の原油生産量は、目立った回復は見られません。主要な原油生産地であるテキサス州を含んだ米国南部での大寒波と停電の影響で一時的に減少した、2021年2月の一時的な減少を除けば、横ばいが続いています。

原油価格が上昇すると、米国のシェールオイルの生産が急増するのではなかったのでしょうか? 現在は、そのような図式はありません。

米国の石油産業は、2020年3月に発生した原油相場の急落で、複数の主要な業者が破綻するなど、大きなダメージを受けました。そこからまだ、生産力が回復していません。米国の原油生産量のおよそ7割を占めるシェール主要地区における生産効率を示す指標である「新規1油井あたりの原油生産量」は、この数カ月間、ほぼ横ばいで推移しています。

油井を掘る際、1本の油井を地中で枝分かれさせるなどの生産効率を上げるための措置を講じるためには、お金と時間がかかると言われています。こうしたお金をかけた開発活動が、明確に頭打ちになっています。稼働リグ数が増加しても、効率よく生産することができなければ、生産量の劇的な回復は望めないでしょう。

また、米国特有の事情として、トランプ氏を真っ向から否定し、脱炭素の協力にかじを切ったバイデン政権下で、大々的に石油開発を推進することは、はばかられるとみられます。

シェール生産者の財務面での体力の低下や、脱炭素を推進する世論の圧力などが、米国のシェール、ひいては米国全体の原油生産量の回復を難しくしていると言えそうです。

図:世界の石油消費量 単位:百万バレル/日量


出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。