[Vol.1081] 「思考の格差拡大」はショックが要因

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。71.27ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,765.70ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年01月限は13,740元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年11月限は474.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで850.3ドル(前日比14.3ドル縮小)、円建てで2,978円(前日比9円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月21日 18時18分頃 6番限)
6,209円/g 白金 3,231円/g
ゴム 195.8円/kg とうもろこし 33,700円/t

●NY銀先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「思考の格差拡大」はショックが要因」

前回は、「なぜ大学入試改革が行われているのか?」として、米同時多発テロ後の20年間で世の中が「複雑化」した例を、「大学入試改革」の側面から述べました。

今回は、「「思考の格差拡大」はショックが要因」として、米同時多発テロ後の20年間で世の中が「複雑化」が進行した例を、「危機を乗り越える際の5段階のプロセス」の側面から述べます。

前回と前々回、SDGsと日本の大学入試改革の例を用い、世の中が2000年ごろから「複雑化」してきたことについて述べました。これらは世の中の仕組みが複雑化したことを示す例でした。

人類が作り出した「市場」という機能は、世の中を構成する1つの要素です。このため、世の中の「複雑化」とともに、市場も「複雑化」してきたと考えられます。投資家を含む市場関係者においては、「複雑化」した市場と対峙するために、自らの思考を「複雑化」させる必要があるでしょう。

もし、市場が複雑化していなければ(過去の常識で説明できる環境が継続していれば)、株価とコモディティ価格の推移は、以前の「[Vol.1077] 20年の節目 過去の常識を捨てなければならい」で述べたような、大きな乖離になることはなかったでしょう。

思考の複雑化について考える際、個人間の「思考の格差」が拡大傾向にあることに留意しなければなりません。以下は、災害が発生した時に起き得る、人々の思考の段階を示したものです。

危機発生時、人は5段階のプロセスを経て乗り越える、という考え方です。無関心→混乱→不安→受容→再出発の5段階です。

新型コロナウイルスがパンデミック(世界的な大流行)となり、日本で初めて緊急事態宣言が発令されたころ、著名な精神科医が、市民のメンタルヘルスを整えるための一つの考え方として、この5段階を提唱しました。

コロナ禍などの危機時、自分が5段階のどこにいるのかを認識することで、現状分析が進み、自分が置かれている状況を自分の言葉で説明できるようになり、精神安定を実現しやすくなると、この精神科医は述べています。

「言語化」は何事においても非常に重要なテーマですが、言語化を精神安定に用いることを体系化したものが、この5段階のプロセスだと言えます。

今どの段階にいるのか、今いる段階に時間的にどの程度滞在するか(次の段階に移るまでにどの程度時間がかかるのか)は、人それぞれ、まちまちです。コロナ禍にあり、すべての人が同じ段階にあり、同じタイミングで次の段階に進む、などということは、ありえません。

ここで留意したいのは、不安や過去に回帰したい思いが強くなり、特定の段階にとどまり続ける人(思考が止まる人・変わらない人)と、不安を言語化ながら、どんどんと先に進む人(思考する人・変わる人)の段階の差が、時間の経過とともに大きくなることです。

この点が、個人間の思考の格差を拡大させる要因です。

世界規模の「ショック」(コロナに限らず)は、前向きな思考停止の主因となる「大きすぎる成功体験」と同様、「変わらない人」を生む大きな要因の一つです。ショック発生→時間の経過とともに思考の格差拡大、という流れはこの20年間で何度も繰り返されてきました。

その度に、変わらない人と変わる人の思考の格差が拡大し、世の中全体として、「思考の複雑化」が進行してきたと言えます。この点は、世の中の「複雑化」を助長していると言えます。

図:危機を乗り越える際の5段階のプロセス


出所:各種資料より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。