[Vol.1086] なぜ「脱炭素」で原油相場が上がるのか?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反発などで。74.67ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの低下などで。1,745.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年01月限は13,815元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年11月限は489.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで777.9ドル(前日比2.3ドル拡大)、円建てで2,779円(前日比9円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月29日 19時28分頃 6番限)
6,230円/g 白金 3,451円/g
ゴム 206.8円/kg とうもろこし 34,650円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「なぜ「脱炭素」で原油相場が上がるのか?」

前回は、「なぜ米中は石油の備蓄を放出しているのか?」として、米国の石油の戦略備蓄の動向と、減少傾向にある(中国も)背景について筆者の考えを書きました。

今回は、「なぜ「脱炭素」で原油相場が上がるのか?」として、脱炭素が進んだ場合の、原油市場を取り巻く環境について、筆者の考えを書きます。

世界的に「脱炭素」が大きく進んだ時、石油の消費量は激減していると考えられます。とはいえ、大きな動力を必要とする大型の航空機や船舶では一部、化石燃料が使われているかもしれません。また、ワクチン接種に必要な注射器や医療従事者の方がまとうガウンなど、必要不可欠な石油由来の製品はまだ、存在しているかもしれません。

以前の「現在の石油消費国No1は米国」のとおり、米国のエネルギー内訳でガソリンは45%です(2020年)。米国で走る自動車すべてが電動になったとしても、石油の消費はゼロになることはありません。ガソリン以外の石油の消費をゼロにできるか?が、自動車の議論の次のステージ(「脱炭素2.0」とでも言うでしょうか)に突き付けられる問いでしょう。

脱炭素2.0でも、原油の需要は、減少したとしてもゼロにならない、一定程度残る、と考えるのが自然であると、筆者は考えています。

このことは、超長期的に、原油市場が、買い手(実需)が少ない市場に変貌し、売り手(産油国など)が一方的に価格を決める環境になる可能性を高めていると、考えられます。(実需の話であり、先物市場における現物の受け渡しを伴わない買い手や、原油価格に連動する金融商品の買い手が減少すると言っているのではありません)

「買い手」は価格が安いことを望みます。「売り手」は価格が高いことを望みます。この原理でいえば、売り手が一方的に価格を決めた場合、価格は上昇することになります。この意味で、なぜ、「必要性の低下」が原油相場に上昇圧力をかけるのか?の答えは、売り手の意向が、市場に反映されやすくなるため、だと考えます。

超長期的に原油市場において、経済の常識である、需要供給バランスと価格の関係が、「脱炭素」をきっかけとした需要減少によって、成り立たなくなる可能性があることを、同市場の今後を考える上で、認識すべきことだと考えます。

筆者は、原油相場の基本データの賞味期限は3年くらいだと考えています。米国が国内の世論を反映して「脱炭素」を強めて石油産業が縮小している可能性があること(米国の原油生産量と石油消費量に影響。産業の縮小は両方の縮小につながる)、OPECプラスの減産が終了して増産をしている可能性があること、などがその理由です。

また、米国については、政策的に「脱炭素」を進めているため、2022年の中間選挙、2024年の大統領選挙で、同国の「脱炭素」をめぐる方針に、なにか変化があるかもしれません。

以下は、WTI原油先物価格の推移です。昨年4月にマイナス価格をつけた、物価動向に影響を与えるため目先の米国の金融政策の方向性を探る上でヒントになる、など何かと話題が豊富です。

「脱炭素」は、超長期的にみれば必ずしも、原油市場の下落要因とは言えないと考えます。「原油価格が高いこと=景気が良いこと」と、原油価格を経済指標の一つとみる市場関係者が増えた場合、彼らの思惑もまた、価格上昇の一因になるかもしれません。

図:WTI原油先物価格の推移(月足 終値) 単位:ドル/バレル


出所:各種情報源より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。