[Vol.1114] 「サウジ1,000万バレル増産」報道

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。82.33ドル/バレル近辺で推移。

金反落。米10年債利回りの反発などで。1,825.40ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年01月限は13,925元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年12月限は524.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで768.85ドル(前日比0.85ドル拡大)、円建てで2,793円(前日比10円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月9日 17時59分頃 6番限)
6,610円/g 白金 3,817円/g
ゴム 220.5円/kg とうもろこし 37,950円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「サウジ1,000万バレル増産」報道」

前回は、「4つの重要イベントと3つのテーマ」として、先週(10月31日から11月5日まで)行われた重要イベントを振り返りました。

今回は、「「サウジ1,000万バレル増産」報道」として、前回示した、先週実施された4つの重要イベントを結びつける3つのテーマの中から、「原油」について、書きます。

3つのテーマ(原油、脱炭素、米国の金融政策)の1つ、「原油」について考えます。OPEC・非OPEC閣僚会議の日、「サウジが原油生産量を日量1,000万バレルまで引き上げる」という、報道が流れ、原油相場が一時、急落しました。

かねてから日本や米国などが要請していた追加の増産を、サウジが実現してくれる、というムードが強まったためです。しかし、その報道は、半日程度経過すると、誤解だったことが市場に伝わり、再び、原油相場は反発し始めました。

下図のとおり、12月はサウジだけではなくロシアも、「日量1,000万バレル」を生産量の上限とすることができるようになります。この「日量1,000万バレル」は、夏以降、毎月日量10万バレル強、計画的に生産量を増加させてきた延長線上にある量です。

「サウジが要求をのんだ」「1,000万バレルとは、すごい量だ」などの思惑が広がるのも分からなくはありませんが、実態としては、計画的な生産増加の流れでそうなった、という話でした。

ある主要メディアは、計画的な生産増加による上限1,000万バレル到達を、日米などの追加増産要請に対する「ゼロ回答」としました。確かにそのとおりです。サウジは消費国の要求をのんでいません。(こうしてOPECプラスから過剰な増産がなされない点は、原油相場の高止まり・上昇要因です)

バイデン米大統領が、G20でOPECプラスの主要産油国らに対し、「追加増産」を要請しましたが、同じ週の木曜日に「ゼロ回答」が返ってきたわけです。かえって、このことがきっかけとなってか、逆にOPECプラスは米国に対して「増産」を提案したと報じられています。

その米国の原油生産量は、昨年の新型コロナショック後、原油生産量は減少したまま、回復していません。ハリケーン襲来による短期的な減少・停滞の影響ではなく、1年以上、回復していない状況が続いています。

昨年春に発生した原油相場の急落時に、複数のシェール企業が破綻し、それ以降、開発が鈍化しています。以前の「景気停滞+物価上昇、原油と金(ゴールド)は、次の大台へ向けて上昇へ!?」で述べた通り、米シェール主要地区の開発関連指標は、原油価格の反発に大きく遅れをとっています。

米国は、温室効果ガスの削減目標を上乗せしたり、他国にさらなる削減を呼びかけたりするなど、「脱炭素」を強力に推進しています。その米国の石油開発が活発化していた場合、他国にはどう映るでしょうか。はたから見れば、自己矛盾に陥っているように見えるでしょう。

「脱炭素」を強力に推進するからこそ、増産をしない(できない)のだと、考えられます。このように考えれば、OPECプラスが米国にした「増産」の提案も、実現する可能性は低いと言えるでしょう。(この点もまた、原油相場の高止まり・上昇要因です)

次回以降、3つのテーマの1つ、「脱炭素」について書きます。

図:サウジとロシアの原油生産量の上限


出所:OPECの資料をもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。