ウクライナ情勢とインフレを受けた金相場見通し

著者:菊川 弘之
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 昨晩のNY金(4月限)は8営業日ぶりに反落した。一陰介在十陽連で上昇を続け、短期的な買われ過ぎ感が意識される中、2021年8月安値を起点とした上昇チャネル上限にも差し掛かり、利食いの出やすい地合いであった。

 米生産者物価指数(PPI)で高インフレが示されたが、ロシアの一部部隊が基地帰還開始と伝えられ、上げ一服となった。ロシア国防省は15日、ウクライナとの国境付近での軍事演習を終えた軍の一部部隊が基地に帰還しつつあると明らかにした。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、ウクライナ国境周辺に展開していた部隊の一部撤収について、事前に計画されていたものであり、今後も部隊の適正な配置を行うとの方針を示した。

 一方、ロシア下院は15日、ウクライナ東部を実効支配する親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家承認するようプーチン大統領に求める議会決議案の採決を行い、賛成多数で可決した。タス通信によると、決議に法的拘束力はなく、可決がロシアによる親露派の即座の国家承認にはつながらない。ペスコフ露大統領報道官は15日、親露派支配地域の国家承認について「いかなる公式の決定もなく、議論も行われていない」と慎重な姿勢を示した。プーチン政権は親露派支配地域を国家承認することにより、ロシア側に有利な「ミンスク合意」を破棄する口実をウクライナ側に与える事態を警戒しているとみられるが、米欧との協議が行き詰まった場合、議会決議を口実に、親露派支配地域を国家承認して事実上のロシアの支配下に置く可能性も排除されていない。

 ウクライナ情勢について外交的解決の模索が続いているが、前線の緊張は高く、親ロシア実効支配地域に対して現状変更の企てがあった場合、ロシアが直接介入する危険は継続している情勢だ。

このコラムの著者

菊川 弘之(キクカワ ヒロユキ)

NSトレーディング株式会社 代表取締役社長 / 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)。
GelberGroup社、FutureTruth社などでのトレーニーを経験後、商品投資顧問会社でのディーリング部長等経て現職。
日経CNBC、BloombergTV、ストックボイス、ラジオ日経など多数のメディアに出演の他、日経新聞、時事通信などに連載、寄稿中。
また、中国、台湾、シンガポールなどで、現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。

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