[Vol.1180] 「見えにくいリスク」は超長期的視点の金上昇要因

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。91.41ドル/バレル近辺で推移。

金反落。米10年債利回りの反発などで。1,893.80ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年05月限は14,260元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年04月限は566.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで796.5ドル(前日比12.45ドル縮小)、円建てで3,010円(前日比24円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(2月18日 14時56分頃 6番限)
7,000円/g 白金 3,990円/g
ゴム 257.9円/kg とうもろこし 42,800円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「見えにくいリスク」は超長期的視点の金上昇要因」

前回は、「ロシアがウクライナにハイブリッド戦で侵攻」として、「ハイブリッド戦」とそれが市場に与える影響について書きました。

今回は、「「見えにくいリスク」は超長期的視点の金上昇要因」として、「ハイブリッド戦」(サイバー攻撃や情報操作などの、非軍事的な戦法)起因の「見えにくいリスク」がもたらす影響について、考えます。

防衛白書には次の記載があります。「純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を「グレーゾーンの事態」と呼ぶ。例えば、国家間において、権益をめぐり主張が対立し、一部の当事国が、武力攻撃にあたらない手法で影響力を強め、現状の変更を試み、別の当事国に対して主張・要求の受け入れを強要しようとする状況を指す」(一部要約)

また、同白書は「ハイブリッド戦」を含む多様な手段により、グレーゾーンの事態が長期にわたり継続する傾向にあると指摘しています。こうしたことは、「武力衝突と有事は同じ意味」「有事は数年で終わる傾向がある」という認識を直ちに改めなければならないことを訴えていると言えるでしょう。

これは、金(ゴールド)市場に関わる人々は特に、関心のベクトルを向けるべき事柄だと、筆者は考えています。「ハイブリッド戦」が横行する「グレーゾーンの事態」が長期にわたり、継続するのであれば、「見えにくいリスク」が長期的に継続(資金を逃避させる需要が強い状態が継続)する可能性があるためです。

「ハイブリッド戦」とそれと対極をなす「武力戦」を比較すると(相対比較)、「ハイブリッド戦」は、コストや物理的損害が相対的に小さく、継続可能期間が長いと言えます。(「グレーゾーンの事態」が長期にわたり継続することの一因)

事態発生時の体感度や実施時の合意形成の難易度が低いこと(リスク発生やその予兆が見えにくく、とがめられにくいこと)や、同時発生の可能性が高いことも、継続可能期間が長い理由の一つと言えるでしょう。

「今、世界がグレーゾーンの事態にある」「見えにくいリスクが周囲にある」と認識している人は少ないでしょう。危機を危機と認知しない多数の市民が、将来、「今が危機だ」と認知したときにどのような行動をするでしょうか? よりどころとなるものを求めるでしょう。何を求めるのでしょうか?

筆者を含めた一般市民の習性(危機を感じた時、盲目的になりやすい)を考えれば、目に見えるもの(見えないものはNG)、わかりやすいもの(複雑なものはNG)、目立つもの(目立たないものはNG)、有名人・権力者が推奨するもの(有名人・権力者でない場合はNG)、歴史・実績があるもの(ないものはNG)、価値がなくならないもの(なくなるものはNG)などが候補となるでしょう。

これらの条件の多くを満たすのは何か? 金(ゴールド)でしょう。以下は、「見えにくいリスク」が、金(ゴールド)市場に与え得る影響のイメージです。

そう遠くない将来、世界中の市民が今そこに危機があることを認識し、「ハイブリッド戦」起因の「見えにくいリスク」から身を守る必要性を感じ、具体的に行動する時がくるでしょう(賢明な市民であれば、いずれ危機を察知し、必ずや身を守る行動をする)。

それは金(ゴールド)相場の超長期的な上昇トレンドのスタートになるかもしれません。

「ウクライナ危機」は、ロシアが「ハイブリッド戦」を仕掛けていることや、そのハイブリッド戦が「見えにくいリスク」を生み出す元凶であることを知らせてくれています。

「見えにくいリスク」は、有事のムード(資金の逃避先需要)、代替資産(株の代わり)、代替通貨(ドルの代わり)、中央銀行の金保有、中国インドの宝飾需要、鉱山会社の動向に並ぶ、金(ゴールド)相場の動向の今後を占う7つ目の重要テーマとして、認識すべきだと考えます。

図:「見えにくいリスク」が与え得る金(ゴールド)相場への影響(イメージ)


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。