[Vol.1193] プーチン氏による「脱炭素」推進国への制裁

著者:吉田 哲
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原油反落。UAEなどの増産報道でなどで。110.98ドル/バレル近辺で推移。

金反落。米10年債利回りの反発などで。1,983.30ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年05月限は14,045元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年04月限は700.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで894ドル(前日比13.4ドル拡大)、円建てで3,426円(前日比41円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月10日 17時50分頃 6番限)
7,383円/g 白金 3,957円/g
ゴム 245.0円/kg とうもろこし 50,630円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「プーチン氏による「脱炭素」推進国への制裁」

前回は、「こぶしを振り上げ続ける各国 状況改善見えず」として、西側諸国(欧米中心)とロシアの要人の発言を振り返りました。

今回は、「プーチン氏による「脱炭素」推進国への制裁」として、今回のウクライナ侵攻の重要人物であるプーチン露大統領の「脱炭素」に対する考えを想像します。

「ウクライナ情勢」は、どうなれば、鎮静化に向かうのでしょうか。「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断した目的が果たされた時」が一つの候補となるでしょう。

それは、前回の「[Vol.1192] こぶしを振り上げ続ける各国 状況改善見えず」で述べた、事態鎮静化に向けた4つの過程のうち、ロシア側にとっての2の事態(ロシアが欧米を凌駕する事態)、同時に欧米側にとっての1の事態(欧米がロシアに屈服する事態)に至った時、と言えます。

筆者が、先週のロシア側の動きを見ていて最も注目した点は、「原子力発電所」を攻撃したり、占拠したりしたことです。これの行為は何を意味するのか、しばらく考えたところ、一つの仮説が頭の中に浮かびました。プーチン氏による、世界的なブーム「脱炭素」への抵抗です。

「原子力発電」は、発電時に温室効果ガスを排出しない、「脱炭素」になじむ発電方法とされています。昨年、欧州委員会は、「原子力」が「脱炭素」を支える重要な要素だと発表しました。

その「原子力発電所」を攻撃したり占拠したりすることは、「脱炭素を支える象徴」に物理攻撃を加えながら、「脱炭素の思想」にも攻撃を加える意味があると、筆者は考えています。実際、欧州最大級の原子力発電が攻撃を受けたと報じられた後、原子力発電所を活用するリスクと「脱炭素」を絡めた報道を目にするようになりました。

前回の図「軍事侵攻直前からの欧米とロシアの主な発言」で示したとおり、ウクライナ侵攻の2日前、ドイツのショルツ首相はドイツとロシア間に敷設され完成し、未稼働のパイプライン「ノルドストリーム2」を稼働させないための手続きを指示しました。

それを受け、ロシアのメドベージェフ氏(ロシア安全保障会議副議長)は、「(欧州ガス価格が高騰する)新しい世界にようこそ」とツイッターに投稿しました。

また、米国がロシア産原油の禁輸について言及した翌日、ロシアのノバク副首相・エネルギー大臣が「原油価格が300ドルに達する」可能性を示唆しました。ロシアは重要な場面で、エネルギーの「価格」について触れているのです。

こうしたロシア要人の発言は、政治的な意図によってロシアの化石燃料を否定するのであれば、法外な価格でエネルギーを買わなければならなくなる、「制裁」を予告したものであるように、受け取れます。

メドベージェフ氏のツイートの翌日、ロシアはウクライナに侵攻し、その後、欧州向けの天然ガス価格はおよそ2週間で2倍強に跳ね上がりました。

振り返れば、2020年にかけて、欧州の主要国はロシアにとって良き天然ガスの買い手でした。2020年までの10年間で、欧州主要国を中心にロシア依存度は大きく上昇しました(ドイツにおいては輸入する天然ガスの半分以上がロシア産になりました)。

「良き買い手」が手のひらを返したかのように、2021年以降、次々に温室効果ガスの排出削減目標を高くし、「脱炭素」を加速させていきました。かつての「良き買い手」たちのこのような動きを見て、プーチン大統領は何を感じたでしょうか。

もし、今回の戦争に「脱炭素を加速させて化石燃料を否定した国への制裁」という意図が含まれているのであれば、この戦争を終わらせる策の一つに「脱炭素推進国が資源国へ譲歩を見せること」があげられるでしょう。

以下のとおり、3月2日に行われた国連総会緊急特別会合で、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を「棄権」した国に、化石燃料の輸出を主要な外貨獲得手段としている国が少なくありませんでした。

ロシアの行動は、世界全体で見れば、全否定されてはいないわけです。

図:3月2日に行われた国連総会緊急特別会合で決議を「棄権」した国


出所:各種資料より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。