金は今は売りかもしれない

著者:近藤 雅世
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 金価格が上昇してくると様々な評論が出てくる。スイス最大の銀行UBSは米中貿易摩擦の深化により、セイフヘイブンとしての金の価格は3ヵ月以内に1600ドルを超えると予想している。

 高くなると予想する評論家が多い中で、米大手銀行Wells Fargoは、高値で金を買いすぎると痛い目に会うだろうと警告している。金市場のボラティリティーは高まっており、金価格の怖さを知らない投資家は、高値でつかむと逃げられなくなる可能性があると言う。金にとって、タイミングがすべてであり、金はポートフォリオの一部に入れる分散投資の資産である。今後の価格は誰にもわからない。この8月の金価格は上がり過ぎであり、今後1400~1500ドル、もしかしたら1300ドルまで下落するかもしれないと弱気の見通しを示す。

 Wells Fargoは金価格が上昇したのは、①世界的に金利が低下したこと、②マイナス金利の資産規模が大きくなったこと、③イールドカーブの逆転、④株価の変動が大きくなったこと、⑤世界経済成長が鈍化したこと、などが挙げられるという。とりわけマイナス金利とイールドカーブの逆転が最も大きな要因だという。

 短期的に金価格は高過ぎるという印象は筆者も同感である。一時的に下落する局面が現れるだろうと予想している。

 トランプ大統領がフランスのG7会合で中国と和解的妥協をすれば、金の投機熱はすぐにでも覚める可能性がある。中国も貿易摩擦を続けることは政権の運営にかなりのリスクを持ち込み、トランプ大統領も、一つ間違えば来年の選挙で勝ち目がなくなるという政治的タイトロープを渡っている。つまり、現在の金価格は人為的な値上がりの側面がある。

 物理的な側面は資産家がマイナス金利の負担を避けて預金を引き出し、金を買うということと、各国中央銀行が引き続き今年も外貨準備の一部を金にするという金需要の増加である。しかし、一般的な金宝飾品需要や小売り投資需要は、高値となれば止まるだろう。現物需要が今後も更なる高値を追い求めるとは考えにくい。金は今は売りかもしれない。

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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