[Vol.1215] 備蓄放出が原油価格下落の決定打になれない理由

著者:吉田 哲
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原油反発。ウクライナ情勢をめぐる供給減少懸念などで。97.44ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米主要株価指数の反落などで。1,951.60ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年09月限は13,545元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年05月限は635.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで989.7ドル(前日比19.3ドル拡大)、円建てで4,009円(前日比54円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月12日 18時13分頃 6番限)
7,870円/g
白金 3,861円/g
ゴム 262.0円/kg
とうもろこし 53,700円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「備蓄放出が原油価格下落の決定打になれない理由」

前回は、「西側諸国も原油価格高止まりに加担!?」足元の原油価格が高止まりしている背景について、筆者の考えを述べました。

今回は、「備蓄放出が原油価格下落の決定打になれない理由」として、備蓄放出についての留意点を述べます。

「備蓄放出」によって、長期的視点の原油価格の大幅下落は起きるのでしょうか。筆者は「No」だと考えています。「備蓄放出」はあくまで「対症療法」に過ぎないためです。短期的な下落は起き得ますが、消費国が望む長期的な大幅下落は難しいと考えます。

「備蓄」へはさまざまな意味を持たせることはできますが、その性質上「在庫」の域を超えず、供給の持続性という点で言えば、「生産」にはかないません。「備蓄(在庫)放出」という行為は、放出できる在庫がなくなれば、それ以上、行うことができなくなるためです。

「備蓄放出」は、一定程度の投資を続ければ埋蔵量がなくならない限り続けることができる「生産」の完全な代わりにはなりません。この点が「備蓄放出」が「対症療法」であるゆえんです。

IEAは、加盟国が合計2億4,000万バレルもの石油備蓄を協調して放出することを発表しましたが、その期間である「半年間」で、消費国が満足する水準まで原油相場が下落する保証はどこにもありません。(身を切れば見返りがある、は期待が過ぎる)

「対症療法」である点を含め、「備蓄放出」については少なくとも5つ、留意すべき点があると筆者は考えています。

協調放出に参加を表明した国々(米国や欧州主要国、日本など)の事情は、同一ではないため一概に言えませんが、放出の程度によっては、自国のエネルギー安全保障が脅かされる事態に陥る可能性があります。この点は将来的に、需給のひっ迫感を強める、原油相場の上昇要因になり得ます。(備蓄放出が後に、価格上昇要因となってはね返ってくる)

次回以降、他の3つの留意点について述べます。

図:石油の「備蓄放出」策における5つの留意点


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。