[Vol.1237] 先に信頼を棄損したのは西側

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。111.58ドル/バレル近辺で推移。

金反落。米10年債利回りの反発などで。1,815.67ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年09月限は12,980元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年07月限は704.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで862.32ドル(前日比13.18ドル縮小)、円建てで3,628円(前日比4円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月18日 16時52分頃 6番限)
7,516円/g
白金 3,888円/g
ゴム 245.6円/kg
とうもろこし 58,120円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「先に信頼を棄損したのは西側」

前回は、「西側も上昇要因を提供している」として、ロシアのウクライナ侵攻の動機を、過去にさかのぼって考えました。

今回は、「先に信頼を棄損したのは西側」として、原油相場の今後を考える上で重要な、産油国と消費国の間に発生している「分断」について、書きます。

先日、国内大手メディアで、「今、消費国は原油高で困難に直面している。しかし、産油国は増産をせず、原油価格を下げようとしない。これは消費国との信頼を棄損する行為だ」という趣旨の記事を目にしました。筆者は逆の面もあると考えています。

2021年1月、バイデン氏は大統領就任直後、米国のパリ協定復帰を決定しました。その後、G7首脳会議や気候変動サミットなどで、積極的に化石燃料の消費を減らすことを高らかに宣言し、同盟国もそれに強く同調しました。こうした動きは「脱炭素」「化石燃料否定」のムードを一段と加速させました。

これにより、「モノ言う株主」は投資先の企業にESG(環境=E:Environment、社会=S:Social、ガバナンス=G:Governance)を強く求めるようになり、投資家はESGに準拠しない企業を選ばなくなり、世界の名だたる自動車会社は電気自動車(EV)に転向する方針を示しはじめました。学校では、こうした動きは社会善であると教えるようになりました。

「化石燃料=悪」「化石燃料=不要」のような言われ方が目立つようになったのも、このころからです。2020年の米大統領選でバイデン氏が勝利したことを受けて、「石油の時代は終わった」と発言し、これから明るい未来が到来することを示唆したアナリストもいました。

このおよそ1年半、「化石燃料=悪」「化石燃料=不要」というムードを醸成した消費国は、産油国との信頼を棄損していなかったでしょうか。産油国の産業を衰退させるきっかけとなり得る「化石燃料否定」が、消費国のビジネスを活性化させるきっかけとなる様を、産油国はどのような目で見ていたでしょうか。

産油国の目に「信頼の棄損」と映った可能性は大いにあるでしょう。バイデン氏が大統領選で勝利した2020年が「脱炭素元年」であったとすれば、先に信頼を棄損したのは、消費国だったことになります。前回述べたとおり、「団結」を是とする西側が、産油国との「分断」のきっかけをつくったわけです。(この点も西側のパラドックスの一つ)

「脱炭素」起因の「分断」は、国連決議の結果にも表れています。ロシアの人権理事会の資格を停止することを求める決議(4月7日)の際、産油国や産ガス国、つまり化石燃料の生産国らが多数、ロシアを否定しない姿勢を示しました。

OPEC(石油輸出国機構)プラスとGECF(ガス輸出国フォーラム。オブザーバー含)では、賛成3、反対7、棄権17、無投票3となり、30カ国のうち9割が賛成しませんでした。「脱炭素への反発を体現・代弁するロシアを否定しない動き」にも見えます。

消費国と産油国との「分断」は、原油市場に大きな影響を及ぼします。消費国が「化石燃料不要論」を唱え、産油国との信頼を棄損すればするほど、産油国側の消費国への配慮が低下し、その結果、市場価格は産油国寄りのものになる、つまり、原油価格が高止まりする可能性が高まります。

経済的な原則で言えば、「化石燃料不要論」は需要減少要因であり、原油価格の下落要因となるわけですが、同論を機に「産油国の意向」が強く市場に反映するようになった場合は、価格は上昇し得ます。

産油国に「原油はもう不要なのですね? それであれば、価格がいくら高くなっても大丈夫ですよね?」と問われた時、消費国は「原油はもういらない。それでも安くしてくれ!」とはなかなか言えないでしょう。「信頼の棄損」により、価格高騰が発生する可能性がある点にも配慮が必要です。

図:2022年4月7日の国連決議


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。