[Vol.1252] 「増産順守」にはロシアの増産も必要

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。119.98ドル/バレル近辺で推移。

金反落。米10年債利回りの反発などで。1,849.90ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年09月限は13,270元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年07月限は758.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで839.9ドル(前日比0.7ドル拡大)、円建てで3,712円(前日比8円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月8日 17時9分頃 6番限)
7,922円/g
白金 4,210円/g
ゴム 259.3円/kg
とうもろこし 57,410円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「増産順守」にはロシアの増産も必要」

前回は、「消費国とOPECの思惑は食い違っている」として、「増産決定」についての、消費国側とOPECプラス側の思惑の相違について、筆者の考えを述べました。

今回は、「「増産順守」にはロシアの増産も必要」として、OPECプラスが先週決定した「増産」を達成するための条件について、筆者の考えを述べます。

仮にロシアの原油生産量が5月以降横ばいだったとして、ロシア以外の減産参加国19カ国が、減産を一時的に停止して生産量を急増させた2020年4月の水準まで、生産量を増やしたとしても、筆者の推計では、以下の通り、今回の会合で決定した生産量の上限である4,320万バレル(7月・8月分。約65万バレルの上限引き上げを考慮済)に達しません。

約65万バレルの生産上限引き上げは「ロシア込み」が前提です。そのロシアの原油生産量は今、「西側の制裁(不買)」のほか、「自国資源の囲い込み策(西側にインフレをもたらす意図で行っている可能性あり)」により、急減しています(5月は3月比で約12%減)。

ロシアは2022年1月まで、OPECプラス内でNo1の原油生産国でした。組織全体で増産をするのであれば、他の19カ国がロシアの急減分を補った上で、生産量を上乗せしなければなりません。ロシアの減少分が大きいことが、組織全体の増産を難しくしているわけです。

ロシアの生産量が急減していること(今後も減少する可能性があること)や、ロシアが意図して囲い込みをしている可能性があることは、OPECプラスは承知していたはずです(ロシアは同組織のリーダー格)。このため、「できない目標を掲げた」可能性は否定できません。

また、会合では、生産量の上限をこれまでよりもやや多めに引き上げることが決まったに過ぎず、生産量を増やすことが決まったわけではありません。生産量をできるだけ増やさない「減産期間中」にあるOPECプラスが、どれだけ生産量を増やすかは、未知数でしょう。

加えて、上限引き上げの量である64万8,000バレルには、将来の生産枠の「前借り」の意味があります。この値は、もともと引き上げ予定だった43万2,000バレルに、21万6,000バレルを加算したものですが、この21万6,000バレルは9月の引き上げ予定だった43万2,000バレルの半分の量です(もう半分は8月の上限引き上げ分に加算)。

今回の生産上限引き上げが「前借り」を前提に組み立てられていることにより、OPECプラスの増産への姿勢が消極的である感は否めません。「前借り」の対象となった9月の上限引き上げ分は現時点で未定です(次回の6月30日の会合以降で決定する模様)。

図:OPECプラス内減産実施20カ国の原油生産量と上限 単位:万バレル/日量


出所:ブルームバーグおよびOPECの資料より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。