[Vol.1310] 西側諸国も危機沈静化を難しくしている

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。89.19ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,723.05ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。23年01月限は12,565元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年10月限は716.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで899.25ドル(前日比4.95ドル縮小)、円建てで3,940円(前日比9円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月31日 18時33分頃 6番限)
7,610円/g
白金 3,670円/g
ゴム 219.3円/kg
とうもろこし 48,000円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「西側諸国も危機沈静化を難しくしている」

前回は、「中国はロシア産原油を割安価格で調達している」として、中国の国別原油輸入単価を確認しました。

今回は、「西側諸国も危機沈静化を難しくしている」として、米国国民が感じる「最も緊急な問題」の順位を確認します。

今、西側諸国は、インフレを利上げや仕組み(法整備)で沈静化しようとしています。しかし、こうした策はインフレを根本から解決する策ではありません。現在のインフレがウクライナ危機起因の供給制約で起きているためです(需要増加(経済過熱)によるインフレであれば、こうした策は効果を発揮する)。

例えば西側の最主要国、米国では、中央銀行がインフレ退治は自分の役割だと疑わず、利上げに固執したり、米国政府が3カ月を切った中間選挙を前に、選挙戦を優位に進めるためになりふり構わずふるまったりしています(インフレ抑制法案の可決、学生へのバラマキなど)。

インフレを重視せざるを得ないのは、有権者である一般大衆の関心がインフレに向いているためです。以下の通り、米国国民が感じる「最も緊急な問題」は、海の向こうのウクライナの情勢ではなく、目の前のインフレです。

大衆や中央銀行の関心を、ウクライナからインフレに移してウクライナ危機対応の温度感を低下させる。これは、ロシアが仕組んだ罠なのか、それとも周囲で何が起きていてもインフレを最大の関心事にしてしまう資本主義社会の宿命なのか、定かではありません。

およそ100年前のウラジーミル・レーニン(ロシア革命の指導者)の言葉とされる「資本主義を破壊する最善の策は通貨を堕落させること(インフレを起こすこと)」をもとに考えれば、それは資本主義の宿命なのであり、弱点なのでしょう。

そしてその弱点を、ウクライナに侵攻して供給懸念をあおり、鋭く突いたのがウラジーミル・プーチン大統領だった、と言えるでしょう。西側自らが、制裁という形で供給懸念に加担したり、中央銀行が利上げに固執して経済が混乱したりすることも、初めからわかっていたのではないでしょうか。

インフレを利上げや法整備という対症療法で沈静化しようとしたり、ウクライナ危機を急所にとどかない制裁で沈静化しようとしたりしていては、症状(インフレやその根本原因であるウクライナ危機)を根治することはできません。

この半年間でますます、西側の大衆や中央銀行の視点がずれ(根本原因を見ずに目先の不安事を凝視)、ますます、危機沈静化が遠ざかったと言えるでしょう。根治できなければ、ウクライナ危機は長期化するだけです。

根本原因から目を背け、「できること」にまい進する米国は、「アメリカ・ファースト」と呼ばれてもおかしくはないと、筆者は感じます。

図:米国国民が感じる「最も緊急な問題」の順位
図:米国国民が感じる「最も緊急な問題」の順位

出所:キニアピック大学の調査より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。