[Vol.1336] 「減産順守率の正常化」を起点に考える

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。89.44ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,671.35ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。23年01月限は12,875元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年11月限は695.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで781ドル(前日比1.6ドル拡大)、円建てで3,753円(前日比0円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月11日 16時31分頃 6番限)
7,774円/g
白金 4,021円/g
ゴム(まだ出来ず)
とうもろこし 51,680円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「『減産順守率の正常化』を起点に考える」

前回は、「中間選挙終了、金(ドル建て)反発起きる?」として、金(ドル建て)相場の目先の動向に関する筆者の考えを述べました。

今回は、「『減産順守率の正常化』を起点に考える」として、金(ドル建て)相場の目先の動向に関する筆者の考えを述べます。

足元、原油相場の反発が目立っています。WTI原油先物(国際的な原油価格の指標の一つ)は、9月下旬に80ドル割れを喫しましたが、10月に入り、息を吹き返してきています。

株価反発による需要拡大期待、ドル反落などが、原油価格反発の要因に挙げられますが、最も大きい要因は何といっても「OPEC(石油輸出国機構)プラス減産報道」です。10月5日に行われた第33回OPEC・非OPEC閣僚会議で、OPECプラスが200万バレルもの規模の減産を合意したことが報じられました。

OPECプラスは、世界の原油生産シェアの6割弱を占める産油国のグループです(2022年9月時点 ブルームバーグのデータより)。サウジアラビア、イラク、アルジェリアなどOPEC13カ国と、OPECに加盟しないロシア、カザフスタン、マレーシアなど10カ国、合計23カ国で構成されています。

このうち、イラン、リビア、ベネズエラの3カ国を除く20カ国が、生産調整(減産)に参加しています。3カ国は政情不安や、制裁を受けていることなどを理由に、減産に参加していません。

OPECプラスはこの2年強、毎月会合を行い、翌月の生産量の上限を決め、その都度、原油市場はもちろん、世界全体に(原油価格の動向が主要国を悩ませるインフレ動向を左右するという意味で)影響力を行使してきました。

中でも今回の会合は、「200万バレルの減産合意」という、インフレに悩む主要国の淡い期待を、何の迷いもなく振り払う内容で合意し、かつ、実際に原油相場を急反発させたことから、大きな話題を集めています。(主要国では話題を集めているというよりも、物議を醸している)

なぜ、OPECプラスはこのようなことを合意したのでしょうか。今回以降数回に渡り、こうした疑問のほか、筆者の頭の中にある、OPECプラスに関わる報道(特に見出し)への引っ掛かりなどについて、まとめることにします。

OPECプラスの会合に関わる疑問と引っ掛かりについて書くにあたり、さまざまな切り口を考えましたが、「異常値まで上昇している減産順守率」が、最もそれに適していると考えました。

以下はOPECプラスの減産順守率の推移です。減産順守率は「実際の削減量」÷「要求された削減量」で求める、どれだけきちんと減産を守っているかを示す数値です。100%を超えると減産順守です(自分たちで決めた削減量以上に、削減をしている状態)。

「実際の削減量」は、「減産基準量」-「実際の生産量」で求めます。さまざまな数値のうち、「減産基準量」と「要求された削減量」は、OPECプラスが自ら決めています。

この減産順守率は足元、異常値といえる水準まで上昇しています。筆者の推計では、2022年9月の減産順守率は334%でした((4,548万バレル/日量-4,036万バレル/日量)÷153万バレル/日量)。153万バレル/日量を削減すればよいところ、511万バレル/日量も削減している計算です。

OPECプラスの原形が誕生したのは、2016年12月の会合でした(OPECと一部の非OPEC加盟国の共同宣言「DoC(Declaration of Cooperation)」がなされた会合)。その翌月からはじまった減産における減産順守率は、筆者の記録によれば、高くても180%前後でした。それと比較すると、いかに足元の減産順守率が異常値かがわかります。

次回以降、減産順守率を算出する際に必要なさまざまな値を確認します。

図:OPECプラス(減産実施20カ国)の減産順守率(筆者推計)
図:OPECプラス(減産実施20カ国)の減産順守率(筆者推計)

出所:OPECの資料およびブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。