[Vol.1392] 消費国の「依存心」という視点

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。78.83ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,826.35ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。23年05月限は12,695元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年02月限は558.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで750.4ドル(前日比8ドル縮小)、円建てで3,363円(前日比119円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(12月30日 大引け 6番限)
7,746円/g
白金 4,383円/g
ゴム 218.0円/kg
とうもろこし 44,850円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「消費国の『依存心』という視点」
前回は、「OPECは消費国の『依存心』を利用し価格つり上げ」として、減産に参加するOPECプラス20カ国の原油生産量などについて、述べました。

今回は、「消費国の『依存心』という視点」として、主要産油国の収支が均衡する時の原油価格について、述べます。

前回述べた、OPECプラスが減産を積極的に実施する理由については、表向きは「世界の景気減速を受けて減少する原油需要に見合う生産をするため」といわれています。筆者はこの点の他に、「主要産油国の財政均衡のため」という理由もあると、考えています。

以下の図のとおり、IMF(国際通貨基金)はサウジ、イラク、オマーン、クウェート、UAEにおける、財政収支が均衡するときの原油価格を「70ドル前後」と予測しています(5カ国平均でおよそ67ドル)。

原油価格がこの水準を割り込むと、これらの国の財政収支が悪化し、国力が低下しかねません。彼らは、国力低下を回避するために、減産に励み、需給を引き締め、原油価格をつりあげようとしていると、考えられます。

今月(12月)上旬、WTI原油先物価格は、70ドルを割り込みそうになりました(期近ベース)。こうした原油相場の動きに、彼らは強い危機感を覚えたことでしょう。12月4日、200万バレルの減産維持でOPECプラスは合意。原油価格はほどなくして反発し、80ドル台に回復しました。

また、多くの分野で言えることですが、依存心の強い人(依存者)から対象物を取り上げようとすると、その依存者は「高値でもいいから売ってくれ」という気持ちになるでしょう。

この「高値でもいいから売ってくれ」という心情が、どこか化石燃料の消費国の間で底流しているように感じられてなりません。

例えば、ファストフード店に行き、冷たい飲み物を購入すると、ストローは紙製に代わった(脱炭素実施)ものの、カップとフタは化石燃料由来のプラスチック製のままです。

こうした消費国の「徹底しきれていない脱炭素」を見て、産油国は「まだまだ自分たち(産油国)への依存を断ち切れてない」、だから「減産のアナウンス効果は持続する」などと、ほくそ笑んでいることでしょう。

減産のアナウンス効果は、われわれ消費国の化石燃料を取り上げられたくないという「依存心」が創り出しているのかもしれません。そう考えれば、われわれ消費国の化石燃料への依存心が、原油価格を高止まりさせる一因になっていると、言えるかもしれません。そして産油国は巧みに消費国の依存心を操り、原油価格を高値で推移させていると言えるでしょう。

ここまでの5回で、2023年の原油相場の動向について、筆者の考えを述べました。お役に立てば幸いです。

図:主要産油国の収支が均衡する時の原油価格(IMF予測2021・2022年の平均) 単位:ドル/バレル
図:主要産油国の収支が均衡する時の原油価格(IMF予測2021・2022年の平均)

出所:IMF(国際通貨基金)のデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。