[Vol.1407] 欧州の天然ガス市場は「ウクライナ禍」の最中

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。79.88ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,924.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年05月限は13,390元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年03月限は563.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで877.9ドル(前日比9.3ドル拡大)、円建てで3,715円(前日比7円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(1月25日 18時53分頃 6番限)
8,027円/g
白金 4,312円/g
ゴム 233.7円/kg
とうもろこし 43,780円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「欧州の天然ガス市場は『ウクライナ禍』の最中」
前回は、「インフレ峠超え、『米国』にその兆しあり」として、主要国のインフレ率(年平均、前年同期比)について、書きました。

今回は、「欧州の天然ガス市場は『ウクライナ禍』の最中」として、欧州の天然ガス価格とドイツの電力価格の推移を、確認します。

欧州主要国では、ウクライナ危機が終息する見通しが立たないため、エネルギーの需給ひっ迫が継続し、それにより、2023年も2022年と同様、高インフレに見まわれる可能性があります。その欧州で、具体的に何が起きているのでしょうか。

「ウクライナ危機勃発が、エネルギー価格高のきっかけになった」と語られることが多いですが、欧州の天然ガス価格については、以下のグラフのとおり、危機勃発の半年ほど前(2021年夏から秋にかけて)から、上昇が始まっていました。(グラフ内の赤丸)

この時期、ガスプロム(ロシア最大のエネルギー総合会社)が株式の100%を保有する会社が建設を進めてきた、ドイツとロシアを結ぶ天然ガスを輸送する海底パイプライン「ノルドストリーム2」を巡る状況が、大きく変わりました。

同年9月に同パイプラインが完成したり、米国がロシアに対して同パイプラインを使って「天然ガスを武器として利用すること」を強くけん制したりしました。パイプラインは完成したものの、「ロシアが供給を絞り、天然ガス価格が上昇するのではないか」などの思惑が浮上しました。

米国は、前政権の時に悪化した関係を再構築しようとドイツとの距離を縮めつつ、同パイプラインの利用を巡り、ロシアをけん制。そのことで、ロシアが米国に対する態度を硬化させて、欧州向けの天然ガスの供給を絞る思惑が生じました。

また、2021年末にドイツで首相が交代したことも、天然ガス価格を上振れさせる思惑を増幅させた可能性があります。首相交代は、ドイツと米国、ドイツとロシアなど、複数の重要なポイントにおける政治的なバランスを変化させるきっかけになりました。

新しい首相になったショルツ氏は、ノルドストリーム2を「稼働させない」ための手続きを指示するなど、「米国寄り・ロシア離れ」の姿勢を示していました。ウクライナ危機勃発の2日前です。

その他、厳冬が見込まれていたことで、欧州の天然ガス需要が増加する思惑や、ロシアの自国優先の姿勢が強まる思惑が浮上していたことや、コロナ禍からの回復過程で需要が増加していたことなども、価格を上振れさせた一因だったとみられます。

とはいえ、価格の急騰が始まったタイミングや、急騰の規模感を考えれば、「ノルドストリーム2を巡る環境の変化(その延長線上には危機勃発)」が、価格上昇を主導したと考えられます。

振り返れば、この時期(2021年の夏から秋にかけて)が、欧州の天然ガス相場における「ウクライナ相場」のはじまりだったと言えそうです。

その意味では、同危機が存在する以上、欧州の天然ガス価格が同相場開始前の水準に戻るシナリオを描くことは、難しいでしょう。この点が、2023年も欧州でインフレが続く要因になるとみられます。

図:欧州の天然ガス価格とドイツの電力価格 単位:ユーロ/メガワット時
図:欧州の天然ガス価格とドイツの電力価格

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。