[Vol.1428] この3カ月間の価格動向は今後の伏線

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。76.22ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,830.85ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。23年05月限は12,590元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年04月限は551.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで884.15ドル(前日比2.85ドル拡大)、円建てで3,811円(前日比4円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(2月24日 16時30分頃 6番限)
7,883円/g
白金 4,072円/g
ゴム (まだ出来ず)
とうもろこし 44,160円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「この3カ月間の価格動向は今後の伏線」
前回は、「『コロナ・ウクライナなし』比1.4倍高」として、コロナ・ウクライナなし期間(2016~2019年)の平均値と足元の価格を比較しました。

今回は、「この3カ月間の価格動向は今後の伏線」として、筆者が考える、危機を起点とした最近3カ月間のコモディティ市場を取り巻く環境について、述べます。

現在も「ウクライナ危機」は、「下げ渋り(長期視点の高止まり)・反発要因」として、生きています。以下の通り、足元の価格は、侵攻開始日や侵攻開始後のピークからは大幅に下落しているため、「ピークを越えた」という印象を受けるものの、まだまだ「長期的に見て」高水準です。

・「足元の価格」を、以下の三つの価格と比較
(1)侵攻開始日(2022年2月24日)の終値比
→ 多くの銘柄が下落。この1年間は総じて「下落」だった。
(2)侵攻開始前(2021年12月30日)の終値比
→ 大きな変動なし。下落して侵攻開始前の水準に戻った。
(3)コロナ・ウクライナなし期間(2016~2019年)の平均値。「足元の価格」と比較。
→ ほぼ全て「高い」。過去の標準的な時代の約1.4倍高。

コモディティ(国際商品)市場全般の値動きを示す指数の一つである「CRB指数」は、上記の傾向を示しています。

当該指数の主な構成品目とその割合は、原油23%、暖房油5%、無鉛ガソリン5%、天然ガス(米国)6%、トウモロコシ6%、大豆6%、生牛6%、銅6%、砂糖5%、コーヒー5%、ココア5%、小麦1%、冷凍オレンジジュース1%などです(合計19銘柄 2022年10月時点)。

足元の同指数は、軍事侵攻開始前よりも高く、軍事侵攻開始日と同じ水準です。指数全体の3割強を構成する原油と原油を原材料とする製品(暖房油と無鉛ガソリン)が、軍事侵攻開始前と同じ水準、軍事侵攻開始日よりも低い状況にある中で、同指数が一段上の水準にあるのは、大豆、生牛、銅、砂糖、コーヒー、ココアなど(合わせると指数全体の3割強)の価格上昇が目立ったためです。

原油は、2022年3月につけた記録的な高値から大きく下落したものの、現在は下げ渋って、長期視点で「高止まり」しています。トウモロコシ、小麦も同様に、下げ渋り(長期視点の高止まり)の様相を呈しています。この間、こうした銘柄には、下落圧力を相殺する「上昇圧力」がかかり続けていることがうかがえます。

また、大豆、生牛、銅、砂糖、コーヒー、ココアなどはこの3カ月間で大幅反発しました。米国の利上げ停止期待による需要回復期待増幅・ドル下落による割安感醸成、そして、ロックダウン解除後の中国の景気回復期待などが一因と考えられます。

原油、トウモロコシ、小麦の下げ渋りが目立ち始めたタイミングと、大豆、生牛、銅、砂糖、コーヒー、ココアの反発が目立ち始めたタイミングがほとんど同じであることから、下げ渋り(長期視点の高止まり)と反発は、同じ要因で起きている可能性があります。

筆者は、最近3カ月間の下げ渋り(長期視点の高止まり)や反発は、「ウクライナ危機起因の上昇圧力」が一因で起きていると考えています。つまり、同危機起因の上昇圧力は消滅していない、という考え方です。

インフレの早期沈静化を願う市場関係者の一部は、各種コモディティ価格が侵攻開始時やその後の高値に比べて大きく下落している様子を見て、ウクライナ危機がもたらす上昇圧力はほとんど消滅したのではないか、と考えている節があります(期待先行)。

しかし、この数回で確認したとおり、各種コモディティ銘柄の多くは、長期視点ではまだまだ(まだまだ)「高い」です。

そして、混乱に乗じて影響力を高めようと画策する国が現れたり、混乱がきっかけで生じた資源価格の高騰を謳歌(おうか)する国が現れたりしているため、ウクライナ危機は長期化する可能性があります。

ウクライナ危機の長期化は、各種コモディティ(国際商品)価格を、長期的に「下げ渋り(高止まり)・反発」させると筆者は考えています。

図:危機を起点とした最近3カ月間のコモディティ市場を取り巻く環境(筆者イメージ)
図:危機を起点とした最近3カ月間のコモディティ市場を取り巻く環境(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。