[Vol.1474] プラチナ長期:非西側の出し渋りと脱炭素が支える

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反落などで。75.66ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,991.45ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所) 労働節のため休場。

上海原油(上海国際能源取引中心) 労働節のため休場。

金・プラチナの価格差、ドル建てで931.2ドル(前日比4.30ドル拡大)、円建てで4,179円(前日比106円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月2日 10時55分頃 6番限)
8,746円/g
白金 4,567円/g
ゴム 214.5円/kg
とうもろこし 42,050円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
NYプラチナ先物(期近) 月足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「プラチナ長期:非西側の出し渋りと脱炭素が支える」
前回は、「プラチナ短期:『三つの上昇圧力』が価格を支える」として、プラチナ市場にかかっているとみられる「三つの上昇圧力」について書きました。

今回は、「プラチナ長期:非西側の出し渋りと脱炭素が支える」として、プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数の推移について書きます。

WPICが公表しているデータによれば、プラチナの国別鉱山生産シェア1位は南アフリカ(71%)、2位はロシア12%、3位はジンバブエ(9%、南アフリカの北東部と隣接)です。プラチナは生産国が偏っている(偏在している)ことがわかります。これらの国で何か起きた時、全体的な供給懸念が高まりやすいと言えます。(前回述べた南アフリカの電力不足起因の供給懸念がこれにあたる)

こうした国々の「自由民主主義指数」は、どの程度なのでしょうか。同指数はヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所が公表しています。行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由度や民主度をはかる複数の観点から計算され、0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、非民主的な傾向が強い、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

以下のとおり、生産シェア2位のロシア、同3位のジンバブエは恒常的に0に近い、つまり、ほぼ常に非民主的であると言えます。こうした国は、民主的な国家との対立が激化した場合、「出さない」ことをほのめかし(資源を武器として利用し)、自分たちを有利にすることができます。

同シェア1位の南アフリカはどうでしょうか。2000年以降、じわじわと上昇していました(民主的な傾向が少しずつ強くなっていた)が、2011年ごろから下落傾向が目立ち始めています。ここ10数年間、プラチナの最主要鉱山生産国である南アフリカの民主的な傾向は、弱まりつつあるのです。

以前の「[Vol.1440] 『2011年』は世界の転換点でもあった」で述べた、2011年ごろから民主的な傾向がある国の数が減少している流れの一端であると考えられます。

南アフリカの民主的な傾向の低下が続けば、長期視点のプラチナの供給懸念が高まります。こうした状況にある中で今年2月、南アフリカは同国付近で、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと、ロシアと同じく米国と対立を深める中国と、軍事演習を行いました。

南アフリカは今、自由民主主義指数が極めて0に近く、非民主的な傾向が特に強いロシア(0.071)と、中国(0.040)(ともに2022年)に取り込まれ、今後ますます、民主的な傾向が弱くなる可能性があります。

先述のとおりこうした国は、民主的な国家との対立が激化した場合、「出さない」ことをほのめかし(資源を武器として利用し)、自分たちを有利にすることができます。この点は、長期視点のプラチナ価格の上昇要因になり得ます。

また、西側諸国が進めている「脱炭素」起因の新しい需要(グリーン水素の生成装置やFCV(燃料電池車)の発電装置向けの需要)が長期視点で増える可能性もあり、この点も長期視点の価格上昇要因なり得ると考えます。

図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数の推移
図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数の推移

出所:WPICおよびV-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。