[Vol.1581] まだまだ、慎重な議論が必要

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。82.75ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,833.50ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)国慶節のため休場。

上海原油(上海国際能源取引中心)国慶節のため休場。

金・プラチナの価格差、ドル建てで971.5ドル(前日比2.20ドル拡大)、円建てで4,628円(前日比2円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月6日 17時14分時点 6番限)
8,714円/g
白金 4,086円/g
ゴム 231.1円/kg
とうもろこし 39,180円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「まだまだ、慎重な議論が必要」
前回は、「先進国も新興国も負担大になる可能性あり」として、IEAが示した2050年までの温室効果ガス排出量について、述べました。

今回は、「まだまだ、慎重な議論が必要」として、ネット(正味)ゼロ シナリオ(2023年更新版)の概要について、述べます。

今年7月、世界の石油需要の見通しが割れました。2023年の世界の石油需要について、IEAは前月の見通しから下方修正しましたが、OPEC(石油輸出国機構)は上方修正しました。

2023年の同需要は従来の見通しよりも減るのか、増えるのか、どちらを参照すればよいか、議論が巻き起こりました。

IEAは日本では比較的信用できる機関と位置付けられている節があります。IEAと同じように毎月おおむね第二週に統計を公表しているOPECやEIA(米エネルギー情報局)に比べて中立性があると、考えられているためです。

確かに、非西側諸国の産油国の集団であるOPECや、米国という単一国の一機関であるEIAに比べれば、IEAは中立に見えます。

しかし、以下の図「ネット(正味)ゼロ シナリオ(2023年更新版)の概要」のとおり、IEAの主要メンバーはほとんどが西側諸国です(中国やインドはIEAのAssociation countries(協力国)にすぎない)。

一方、IEAと正反対の見通しを示したOPECはどのような組織でしょうか。西側のメジャーと呼ばれる大規模な石油関連企業たちに牛耳られていた自国の石油の利権を奪回することを目的とし、1960年にできた組織です。

IEAとOPEC、それぞれの背景を大まかに言えば、IEAは西側、OPECは非西側となるでしょう。

IEAは需要見通し下方修正について、「欧州」で高インフレによる景気減速・需要減少、同時に「脱炭素が加速していること」を主な理由に挙げました。

一方、OPECは需要見通し上方修正について、「中国」でゼロコロナ政策解除を起点とし経済回復が見込まれることを主な理由に挙げました。

同じ「2023年の石油需要の見通し(前月比)」であるにもかかわらず、見通しを示す機関によって食い違いが発生するのはなぜでしょうか。ここに「脱炭素」をめぐる思惑の相違が浮かび上がってくると、筆者は考えています。

IEAは脱炭素が進んでいることが一因で石油需要が減少していると考えている節があり、逆にOPECは脱炭素が徹底されていないことが一因で石油需要が増えていると考えている節があります。

それぞれがそれぞれの思惑を見通しに反映させている可能性は否定できないと、筆者は考えています。それぞれのプロパガンダ(政治的意図を持った宣伝)の意味を含んでいると考えれば、見通しが食い違ったことを説明しやすくなるためです。

9月26日に公表されたIEAのNZEシナリオはどうでしょうか。いくつも「大胆な」箇所があることについて、本レポートで述べました。そこにプロパガンダの意味はないと言い切れるでしょうか。

西側が提唱した脱炭素はうまくいっている、今後も脱炭素はうまくいく、しかもエネルギー価格が大暴落する、お金を払うことで新興国・途上国への影響力を強めることができる…。筆者は現時点で、NZEシナリオからこうした西側の思惑を感じています。

原油を含むエネルギーの価格が、NZEシナリオどおりに本当に大暴落するのか、道中でシナリオが修正されることはないのか、長期視点で同シナリオを見守っていきたいと思います。

二酸化炭素の価格よりも原油価格が安くなった場合(同じ熱量で)、再び、石油の世界が到来する可能性もあるかもしれません。

図:ネット(正味)ゼロ シナリオ(2023年更新版)の概要


出所:IEA(国際エネルギー機関)の資料をもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。