[Vol.1594] 長期視点では「中央銀行」に注目

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。84.95ドル/バレル近辺で推移。

金反発。中東情勢の混迷などで。1,999.85ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年01月限は14,605元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年12月限は668.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1087.45ドル(前日比4.95ドル拡大)、円建てで5,289円(前日比5円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月26日 16時38分時点 6番限)
9,610円/g
白金 4,321円/g
ゴム 262.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「長期視点では『中央銀行』に注目」
前回は、「有事の賞味期限に関する考察」として、長期視点のドル建て金(ゴールド)の価格推移を確認しました。

今回は、「長期視点では『中央銀行』に注目」として、金(ゴールド)市場を取り巻く7つのテーマを確認します。

長期投資を前提とし、金(ゴールド)に注目をされておられる方は少なくないと思います。時には数十年単位のプロジェクトになり得る長期投資において、前回述べた有事の賞味期限である2年(あくまでも筆者の考察にすぎませんが)は短いかもしれません。

ですが、金(ゴールド)市場には、長期視点の価格反発を誘引する可能性があるテーマがあります。「中央銀行」です。(合計7つのテーマは以下の図をご覧ください)

足元で目立っている「有事ムード」は、短中期の時間軸のテーマに分類しています。また、「[Vol.1592] ドル・株起因の下落圧力の中、上昇」で述べた「代替資産」と「代替通貨」も、短中期です。つまり、ここで挙げたテーマは、いずれも長期に分類されていないのです。

一口に金(ゴールド)価格を変動させるテーマといっても、影響度も時間軸も異なります。特に長期投資を前提として金(ゴールド)に注目される方は、中長期以降のテーマに注目されると良いと、筆者は思います。

当然のことながら、金(ゴールド)価格は日々、短中期のテーマの影響を受けて細かく変動します。このため、短中期のテーマに関心が向くことは自然なことだと思います。ただし、長期投資をされている場合は、日々の値動きやテーマの他に、長期視点のテーマにも注目する必要があると、考えます。

「中央銀行(Central bank)」は、通貨を発行したり、雇用と物価を調節するために金融政策を検討・決定したり、事態が急変した時のために外貨準備高を保有したりする、公的な金融機関です。「銀行の銀行」とも呼ばれます。

各国の中央銀行の多くが外貨準備高の一部として金(ゴールド)を保有しています。今年に入り、中央銀行が積み上げた量(差引合計)は、金(ゴールド)の全需要のおよそ20%を占めます(WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)のデータより)。このことは、中央銀行の動向が金(ゴールド)市場に大きな影響を与える存在であることを示しています。

ウクライナで危機が勃発したり、米国で急速な利上げが行われたりした2022年の積上げ量(差引合計)は、統計史上最大となりました。リーマンショックが発生した2008年以降、大きな規模の積上げが続いていた中での出来事でした。

WGCが公表した「中央銀行調査(2023年)」の結果によれば、中央銀行たちは主に「歴史的地位」、「危機時のパフォーマンス」、「長期的な価値の貯蔵/インフレヘッジ」、「効果的なポートフォリオの分散化」を目的とし、金(ゴールド)を保有しているようです。

「金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?」という質問で、次の結果が得られました。「歴史的地位」については、回答した先進国の中央銀行全て(100%)が選択しましたが、新興国は3分の2強の69%にとどまりました。また、当該選択肢以外は全て、新興国の割合が先進国よりも高くなりました。

新興国の中央銀行は、金(ゴールド)に対し、危機時でもパフォーマンスが上がる、長期的な価値保全・インフレヘッジに効果を発揮する、効率的なポートフォリオ構築に役立つ、デフォルトしない、流動性が高い、政治リスクを低減するなどを、期待しているようです。

こうした結果から、先進国の中央銀行は金(ゴールド)を「伝統的資産」として認識していると考えられます。新興国の中央銀行は「戦略的資産」として認識していると、考えられます(下位ではあるが、「制裁への懸念」「脱ドル政策の一環」なども選択されている)。

図:金(ゴールド)市場を取り巻く7つのテーマ
図:金(ゴールド)市場を取り巻く7つのテーマ

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。