デリバティブを奏でる男たち【67】 ニーレンバーグのリズム・キャピタル(後編)

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 今回はマルチストラテジー・ファンド運営会社のスカルプター・キャピタル・マネジメント(旧オクジフ・キャピタル・マネジメント)を買収することに合意した米REIT(上場不動産投資法人)のリズム・キャピタルを取り上げています。

 リズムはこれまでは知る人ぞ知る会社であり、そのわけは同社が2022年に社名を変更したばかりだからと考えられます。金融の世界においてグローバルに強い存在感を示すバルジ・ブラケット(※注1)にリストアップされていた投資銀行を数多く渡り歩いた経験を持つマイケル・B・ニーレンバーグが、最高経営責任者(CEO)かつ代表取締役会長兼社長を務めており、以前はニュー・レジデンシャル・インベストメントという社名でした。同社は不動産関連の投資・金融業務を行う米REITだったニューキャッスル・インベストメント(2016年に社名をドライブ・ショックに変更)から2013年にスピンオフ(分離)された後、ニーレンバーグが次々と関連会社や関連資産を買収し、業容を拡大させていきます。(※注1 業績をベースにした投資銀行ランキングの上位を占める世界的規模の金融機関)

リズム・キャピタル 週足

 

◆業容を拡大するリズム


 その過程で2015年にフォートレス・インベストメント・グループの関連会社と管理契約を締結。年間1億ドル近くの手数料を支払いながら取締役会の経営管理を依頼していました。しかし、2022年に4億ドルの解約料を支払い、管理契約を解消して経営を外部委託から内部に取り込みます。それを機会に社名も現在のリズム・キャピタルに変更。プライベート・キャピタル業務にも参入しました。

 ちなみにフォートレスは、第12回で取り上げたブラックロックの元パートナー兼マネージング・ディレクターだったウェスリー・ロバート・エデンズをはじめ、UBSのマネージング・ディレクターだったロブ・カウフマンやランダル・アレン・ナルドーネら5人が1998年に創設したプライベート・エクイティ投資会社です。2007年に上場しましたが、2017年にソフトバンクグループが完全買収して上場廃止。2023年にUAE(アブダビ首長国)の政府系ファンドであるムバダラ・インベストメント・カンパニーがフォートレスの株式の過半数を取得すると発表しています。

▼ブラックロックのラリー・フィンク(前編)―デリバティブを奏でる男たち【12】
https://fu.minkabu.jp/column/1145

 これまでの買収によりリズムの事業は、住宅ローンの債権者に代わって毎月の返済金回収や債務者・抵当物件の管理を行うMSR(Mortgage Servicing Rights、モーゲージ・サービシング権利)関連に加え、住宅用不動産、商業用不動産、消費者向け融資などを含む投資プラットフォームへと広がり、遂には上場ヘッジファンドであるスカルプターを買収することで更に業容を拡大することになりました。

 この買収はスカルプターを取り上げた第32回でも触れましたが、スカルプターを創業したダニエル・オクと、その元弟子で現在スカルプターのCEOであるジェームス・レビンとの確執が始まりだったようです。オクはレビンのCEO就任を望まず、クレディ・スイス(2023年にUBSが救済合併)米国法人の最高経営責任者(CEO)だったロバート・シャフィールにCEOの座を譲って2019年に引退しました。しかし、2021年にはシャフィールが引退し、代わりにレビンがCEOに就任します。そして、オクなどの旧経営陣株主はレビンの高額報酬に対して訴訟を起こす泥仕合へと発展していました。これを解消すべく2022年からスカルプターは身売り先を探します。

▼オクジフ改めスカルプター・キャピタル(前編)―デリバティブを奏でる男たち【32】
https://fu.minkabu.jp/column/1524

 

◆確執の終焉


 その後、リズムはスカルプターを1株11.15ドル、都合およそ6.39億ドルで買収する契約を結んだと発表しました。

 ここに第16回で取り上げたサバ・キャピタル・マネジメント率いるボアズ・ワインスタインをはじめ、第17回で取り上げたパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメント率いるウィリアム・アルバート・アックマン(通称ビル・アックマン)、ディストレス(※注2)とプライベート・エクイティに焦点を当てた米ヘッジファンド、アベニュー・キャピタル・グループの会長兼CEOで共同創業者のマーク・ラスリー、オプションなどのデリバティブに強みを持つグローバル・トレード会社、サスケハナ・インターナショナル・グループの共同創業者兼マネージング・ディレクターのジェフリー・スティーブン・ヤス(通称ジェフ・ヤス)らがコンソーシアム(共同企業体)を組んで対抗します。ワインスタインとアックマンにつきましては、以下をご参照ください。(※注2 経営破綻先や不良債権先などが発行する債券や株式)

▼サバ・キャピタルのボアズ・ワインスタイン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【16】
https://fu.minkabu.jp/column/1218

▼パーシング・スクエアのビル・アックマン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【17】
https://fu.minkabu.jp/column/1236

 このコンソーシアムはリズム案を約7.6%上回る1株12ドルの買収価格を提示。スカルプターは他からも買収提案を受けたようですが、買収条件の負担の重さや、買い手候補が資金を確保していないことなどを理由にこれらを拒否しました。特にコンソーシアム案では、レビンをCEOから最高投資責任者(CIO)に降格することになっていましたので、飲めない提案だったのかもしれません。

 ところが、オクなどの旧経営陣株主はリズム案の1株11.15ドルは過小評価であり、受託者義務違反だとしてスカルプターをデラウェア州裁判所に告訴し、コンソーシアム案を検討せよ、と迫ります。また、買収提案を拒否されたコンソーシアムは1株12.76ドルと買収価格を引き上げました。そこでリズムは1株12ドルまで買収価格を引き上げます。これに対抗してコンソーシアムは1株13.50ドルと、さらに引き上げました。最終的にリズムが当初案を約13.9%上回る1株12.70ドルに買収価格を引き上げ、レビンの報酬見直しを提示したことで、オクなどの旧経営陣株主は買収を了承。告訴を取り下げて決着したようです。

 もっとも、これでリズムの買収活動が終わったとは思えません。今後は第2のスカルプターを探し出し、更なる業容拡大に走り続けることが予想されます。(敬称略)

 

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。