[Vol.1620] 短中期の三要素のうち二つが上昇を支持

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。73.95ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,052.25ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。24年05月限は13,260元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年01月限は555.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1134.85ドル(前日比17.75ドル拡大)、円建てで5,350円(前日比21円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(12月5日 17時38分時点 6番限)
9,617円/g
白金 4,267円/g
ゴム 240.0円/kg
とうもろこし 39,280円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「短中期の三要素のうち二つが上昇を支持」
前回は、「金(ゴールド)価格は史上最高値を更新」として、ドル建て・円建て金(ゴールド)価格の推移(過去およそ半世紀)を確認しました。

今回は、「短中期の三要素のうち二つが上昇を支持」として、金(ゴールド)に関わる短中期の三つのテーマの動向を確認します。

以前より本欄で述べてきたとおり筆者は、金(ゴールド)市場は七つのテーマでできていると考えています。短中期は三つ(有事ムード、代替資産、代替通貨)、中長期は三つ(中央銀行、中印の宝飾需要、鉱山会社)、超長期は一つ(見えないリスク)です。史上最高値に達した足元の短期的な値動きを説明するため、短中期的な三つのテーマそれぞれに注目します。

FRB(米国の中央銀行にあたる機関)は、昨年からインフレ退治と銘打って急激な利上げを行ってきました(図内の「これまで」)。しかしこの数カ月、利上げへの温度感が低下する兆しが生じ、それによるドル安が金(ゴールド)相場に上昇圧力(代替通貨起因)をかけてきました。(図内「A」)

実際にこの1カ月間で、米国の金利動向を示す重要な指標になり得る米10年債利回りは大きく低下(マイナス14%超)し、複数の主要国通貨に対する米ドルの総合的な強弱を示すドル指数も低下しました(マイナス3%超)。

同時に、ウクライナ戦争においてゼレンスキー大統領が領土奪還なしに停戦はないとやや硬い姿勢を示したことや、イスラエル・ハマス戦争においてハマス側が一時停戦をほごにしたとイスラエルが報じたことなども、金(ゴールド)相場に上昇圧力(有事ムード起因)をかけたと言えます。(図内「B」)

当のFRB自身はまだインフレ退治のための利上げは必要だとしており、本格的に利上げへの温度感の低下が始まったとはいえないため、足元の状況は、利上げへの温度感低下の「始まりの始まり」であると言えるでしょう。

この「始まりの始まり」は、利上げへの温度感の低下→個人・企業の資金調達促進観測→景気回復期待増幅、という連想を生み、足元のNYダウ(ダウ工業株30種平均)などの米国の主要株価指数に上昇圧力をかけています(プラス10%弱)。(図内「C」)

金(ゴールド)相場の史上最高値更新は、利上げ温度感低下の「始まりの始まり」という代替通貨起因の上昇圧力、および有事ムード起因の上昇圧力という二つの上昇圧力と、株高による代替資産起因の下落圧力がせめぎ合い、上昇圧力が勝って起きたと言えます。

図:金(ゴールド)に関わる短中期の三つのテーマの動向
図:金(ゴールド)に関わる短中期の三つのテーマの動向

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。