[Vol.2046] 有事・インフレでも金(ゴールド)安

著者:吉田 哲
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原油反発。中東情勢の悪化などで。65.79ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米国の利下げ観測などで。3,543.32ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。26年01月限は15,870元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年10月限は490.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2141.32ドル(前日比4.28ドル縮小)、円建てで10,578円(前日比23円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月2日 17時39分時点 6番限)
16,748円/g
白金 6,170円/g
ゴム 318.7円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「有事・インフレでも金(ゴールド)安」
前回は、「揺らぐ天動説、株高でも金(ゴールド)高」として、パウエル議長の講演時間前後の金(ゴールド)とS&P500の動きを、確認しました。

今回は、「有事・インフレでも金(ゴールド)安」として、海外金(ゴールド)現物価格の推移を、確認します。

前回述べた例以外にも、金(ゴールド)相場における天動説では説明しにくい例があります。以下のグラフは、金(ゴールド)相場の推移と戦車や戦闘機が頻繁に往来するような、世界全体に強い不安を振りまく分かりやすい有事が発生したタイミングを示しています。

1、2、3のように目立った有事がなくても金(ゴールド)相場は上昇しました。逆に、アラブの春とウクライナ戦争勃発直後のような分かりやすい有事が目立つ場面でも、下落しました。これは、金(ゴールド)相場における天動説の一つ、「有事の金」で説明しにくい事態が起きていることを示しています。

また以下の通り、2021年1月から2022年6月にかけて、米国の消費者物価指数(CPI)(前年同月比)が+1.4%から+9.0%まで急上昇した時、金(ゴールド)相場は下落しました。記録的なインフレ急伸時でも、金(ゴールド)相場は下落することがあるのです。

これは、金(ゴールド)相場における天動説の一つ、「インフレ時は金」で説明しにくい事態が起きていることを示しています。

前回と今回で確認したように、近年、金(ゴールド)相場における天動説である「有事の金」「株と金は逆相関」「インフレ時は金」の三つで説明しにくいケースが散見されています。多くの金融機関や投資家の間で強く信じられているにもかかわらず、このような状況が見られます。

天動説を唱える人からは「そんなことはない」という声があがるかもしれません。ですが、多くの人の間で信じられていても、価格がその通りに動かないケースが散見されていることは事実です。

情報発信の際、天動説にこだわればこだわるほど(思惑と実態が異なる場合があると知っていて天動説を述べれば述べるほど)、金融庁が述べるフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)に反するリスクを背負うことになり得ます。

図:海外金(ゴールド)現物価格の推移 単位:ドル/トロイオンス
図:海外金(ゴールド)現物価格の推移 単位:ドル/トロイオンス
出所:LBMAのデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。