[Vol.1690] プラチナはあの呪縛から解き放たれた

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。81.18ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,204.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。24年05月限は14,940元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年05月限は633.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1293.3ドル(前日比31.70ドル拡大)、円建てで6,316円(前日比13円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月21日 17時37分時点 6番限)
10,712円/g
白金 4,396円/g
ゴム 343.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)-円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス

出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「プラチナはあの呪縛から解き放たれた」
前回は、「長期低迷の元凶『まことしやかな悲観論』」として、プラチナの需要内訳とフォルクスワーゲン問題について述べました。

今回は、「プラチナはあの呪縛から解き放たれた」として、プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移について述べます。

今後のプラチナの価格動向について考えます。まずは短期視点です。短期視点の材料は、前々回述べたプラチナの「長期低迷銘柄」としての魅力を損なうものではなく、あくまでも短期的な値動きの原動力となるものです。こうした材料の一つに、「FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ」が挙げられます。

FRBの利下げ(思惑を含む)は、二つの文脈でプラチナ相場に上昇圧力をかけると考えられます。一般に利下げは、個人や企業の資金調達を促進するきっかけになるため、景気回復期待を増幅する作用があります。日本が長い間そうであったように、金利水準を下げたり低く保ったりすることは、景気刺激策の一つになり得ます。

景気回復期待増幅により株高が生じると、需要の7割超が産業用(自動車排ガス浄化装置向け41%+その他産業用33%)であるプラチナにおいて、需要増加観測が浮上し、相場に上昇圧力がかかります。これが上昇圧力の一つ目の文脈です。

同時にFRBの利下げ(思惑含む)はドル金利低下を促し、ドル建て金(ゴールド)の相対的な保有妙味を増幅させます。貴金属の中で最も人気がある金(ゴールド)が貴金属相場全体をけん引することで、プラチナ相場が上昇するきっかけを得ます。これが上昇圧力の二つ目の文脈です。

足元、FRBの利下げについては年内の回数や規模感(利下げ幅)の議論がなされています。利上げ姿勢が鮮明だった昨年と打って変わって、現在は明確に利下げの方針が固まっており、程度はさておき近い時期に利下げが行われる可能性が高まっています。

中央銀行の独立性を尊重してきたバイデン米大統領がFRBに利下げを促す異例の事態が発生するほど、利下げの温度感は高まりつつあるようです。

利下げによって短期視点の株高・金(ゴールド)高・プラチナ高が起きる可能性があると、筆者は考えています。株高は金(ゴールド)相場に下落圧力をかける要因ではありますが、同時にそれを相殺して余りあるドル安起因の上昇圧力がかかり、金(ゴールド)価格は上昇すると考えます。

これは、代替資産起因の下落圧力が代替通貨起因の上昇圧力に相殺される、というイメージで、リーマンショック直後の大規模な金融緩和の際に見られた動きと同じです。くれぐれも、株高の時は金(ゴールド)が安い、という過去の常識を当てはめてはなりません。複数の材料を同時に俯瞰(ふかん)する見方は、今どきの金(ゴールド)相場分析に欠かせません。

長期視点の価格動向については、急騰せず「ゆっくり」上昇し続ける可能性があると、筆者は考えています。長期視点でプラチナの「長期低迷銘柄」としての魅力が持続することを念頭においています。

以下はフォルクスワーゲン問題が発覚した際に、非難の的となった自動車排ガス浄化装置向け需要の推移です。確かに同問題発覚後、欧州での同重要は減少しましたが。その規模はプラチナの需要を急減させるものではありませんでした。

また、コロナショックにより一時的に減少幅は拡大したものの、現在は北米、中国、インドなどでの増加が目立ち、2023年は問題が発覚した2015年を上回りました。2024年はさらに増加することが見込まれています。プラチナはすでに、フォルクスワーゲン問題の呪縛から解き放たれたといえます。

増加の背景については、世界各国で自動車などの排ガス規制が年々強化されていることにより、自動車一台あたりに使われる排ガス浄化装置向けの需要が増えたこと(浄化装置の機能向上を目的とした需要増加)や、ハイブリッド車への回帰が起きていること、プラチナの価格が排ガス浄化装置向けで一部競合するパラジウムよりも安いことなどが考えられます。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス
図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス

出所:World Platinum Investment Councilのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。