[Vol.1777] 「世界分断」で長期高止まりが続くか

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。78.31ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,369.55ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年09月限は14,365元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。24年09月限は592.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1427.55ドル(前日比19.75ドル拡大)、円建てで7,120円(前日比42円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(7月26日 16時47分時点 6番限)
11,775円/g
白金 4,655円/g
ゴム 317.7円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「『世界分断』で長期高止まりが続くか」
前回は、「新興国の中央銀行が長期視点で買い継続」として、中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移を確認しました。

今回は、「『世界分断』で長期高止まりが続くか」として、2010年ごろ以降の世界分断発生と各種コモディティ(国際商品)価格上昇の背景を確認します。

以下の図は、筆者が考える2010年ごろ以降の世界分断発生と、各種コモディティ(国際商品)の価格上昇の背景を示しています。

西側と非西側の「世界分断」は、金(ゴールド)価格上昇の一因であり、戦争や資源国の出し渋りの一因となり、原油高止まり、食品価格高騰、非鉄価格底値切り上げ、などの一因と考えられます。世界分断がインフレの遠因であると、筆者は考えています。

その世界分断が発生した要因に、「ESG」と「SNS」が挙げられると、筆者はみています。以前の「世界分断は『ESG』と『SNS』で深化した」で述べたとおり、人類の純粋化の延長線上に「ESG」と「SNS」があり、それらが図らずとも世界分断を生み、世界を不安定化させてしまったと考えられます。

「純粋化すればするほど、不安定化する」と述べたのは、日本の著名な経済学者である岩井克人氏です。これは同氏が資本主義の本質について語った際に用いたフレーズです。「ESG」も「SNS」も純粋化の文脈上にあります。

「ESG」は2010年ごろから世界に広まり始めました。E(環境)、S(社会)、G(企業統治)になじむ企業や国に投資をし、そうでない企業や国から資金を引き揚げる、投資先を選別する際の「正義と悪の線引き」のきっかけとなる考え方です。

これにより、E(環境)に抵触する石油関連企業や産油国やS(社会)に抵触する専制的な体制を敷く国(ほとんどが非西側)が非難されるようになりました。同時に、その対極にある西側の企業への投資が加速しました。その結果、非西側から西側への利益の移転が起きました(そして西側諸国の株価指数は大きく上昇した)。

そして、西側と非西側の間の分断が深まりました。西側が悪を排除して純粋化を目指したことで、かえって世界が不安定化してしまったわけです。

「SNS」は、人類が望んだ技術革新の延長線上にあります。「SNS」は、高度に発達したスマートフォンと世界中に張り巡らされたインターネット網を利用し、「つながりたい」という人の根源的な欲求を満たすツールとして、2010年ごろから急速に普及し始めました。

その「SNS」は、2010年代に起きた北アフリカ・中東地域における民主化の波「アラブの春」や、2016年の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票、同年のトランプ氏が勝利した米大統領選挙などに、深く関わったといわれています。

アラブの春では、SNSが増幅させた「民意の渦」によって武力行使による政権転覆が起きました。また、国の行く末を左右する英国、米国における大規模な選挙では、民主主義の根幹を揺るがす、思わぬ結果が出ました。SNSが民主主義を脅かす装置という側面を持っていることを、否定することはできません。

技術革新の方向性は基本的に純粋化です。軽く、薄く、小さく、短く、速く、遠くに、を目指すためです。その意味では、人類がつながりや便利さを求めて純粋化を目指した結果、世界が不安定化してしまったといえます。

すでに西側はESG投資と称して莫大(ばくだい)な資金を動かしてしまっています。また、つながりたいという根源的な欲求を満たすSNSを人類から取り上げることは不可能です。

このため、長期的に世界分断は解消できず、新興国を中心とした中央銀行の金(ゴールド)の買いが継続する可能性があります。このことは、長期視点で金(ゴールド)価格が高止まりすることを示唆しています。

図:2010年ごろ以降の世界分断発生と各種コモディティ(国際商品)価格上昇の背景
図:2010年ごろ以降の世界分断発生と各種コモディティ(国際商品)価格上昇の背景
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。