[Vol.1715] 世界分断は「ESG」と「SNS」で深化した

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。83.01ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。2,337.90ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。24年09月限は14,045元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。24年06月限は650.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1419.7ドル(前日比2.90ドル縮小)、円建てで7,099円(前日比12円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月25日 17時31分時点 6番限)
11,651円/g
白金 4,552円/g
ゴム 301.2円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル

出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「世界分断は『ESG』と『SNS』で深化した」
前回は、「食品価格高と戦争の共通の原因は世界分断」として、産油国に絡む戦争勃発を起点とした食品価格高発生までの流れについて述べました。

今回は、「世界分断は『ESG』と『SNS』で深化した」として、「ESG」「SNS」が食品価格を高止まりさせた経緯について、筆者の考えを述べます。

西側に大きなダメージを与える物価高(インフレ)の元凶といえる世界分断は、どこから来たのでしょうか。「ESG(環境・社会・企業統治)」の考え方と、ポピュリズム(大衆迎合)を促す「SNS(交流サイト)」が、起点であると筆者は考えています。ESGとSNSがなければ、世界分断は起きていなかったかもしれません。

「純粋化すればするほど、不安定化する」と述べたのは、日本の著名な経済学者である岩井克人氏です。これは同氏が資本主義の本質について語った際に用いたフレーズです。「ESG」も「SNS」も純粋化の文脈上にあります。

「ESG」は2010年ごろから世界に広まり始めました。良いことをしている企業に投資をし、悪いことをしている企業から資金を引き揚げるなど、投資先を選別する際の、「正義と悪の線引き」のきっかけとなる考え方です。

これにより、E(環境)に抵触する石油関連企業や産油国やS(社会)に抵触する専制的な体制を敷く国(ほとんどが非西側)を非難する声が大きくなりました。そしてその声が大きくなればなるほど、その対極にある西側の企業への投資が加速しました。

その結果、非西側から西側への利益の移転が起きました(そして西側諸国の株価指数は大きく上昇した)。そして、西側と非西側の間に分断が生まれ、その分断が深まりました。西側が良いこと(正義)を求めて純粋化を進めた結果、かえって世界が不安定化してしまったと言えます。

「SNS」は、人類が望んだ技術革新の延長線上にあります。高度に発達したスマートフォンと世界中に張り巡らされたインターネット網を利用し、「つながりたい」という人の根源的な欲求を満たす「SNS」は、2010年ごろから急速に普及し始めました。

その「SNS」は、2010年代に起きた北アフリカ・中東地域における民主化の波「アラブの春」や、2016年の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票、同年のトランプ氏が勝利した米大統領選挙などに、深く関わったと言われています。

SNSが増幅させた「大衆の渦」によって、アラブの春では武力行使による政権転覆が起きました。また、国の行く末を左右する大規模な選挙では、民主主義の根幹を揺るがす、思わぬ結果が出ました。SNSは、特定のグループを強く批判する攻撃的なポピュリズムを増幅させて民主主義を脅かす装置、とも言えます。

技術革新の方向性は基本的に純粋化です。速く、軽く、薄く、遠く、小さく、を目指すためです。その意味では、人類がSNSによる便利さを求めて純粋化を目指した結果、かえって世界が不安定化してしまったと言えます。(下図参照)

食品価格を下げさせたければ、西側と非西側の分断を解消する必要があるわけですが、その分断を解消するためには、SNSとESGを止める必要があると言えます。ですが、すでに西側はESG投資と称して莫大(ばくだい)な資金を動かしてしまっていますし、つながりたいという根源的な欲求を満たすSNSを人類から取り上げることは不可能でしょう。

世界分断はまだ続く、それがもたらす産油国に絡む戦争をきっかけとした供給減少懸念も、減産という名の出し渋りも続く、そして食品価格高も続く、このように考えるのが自然であると筆者はみています。補助金を付与したり、税金の仕組みや金利を調整したりすることで、ある程度、物価高を吸収することが可能かもしれません。

しかし、足元の物価高がコストプッシュ型である上、西側と非西側の分断を解消しなければ、根本的な解決には至りません。

図:「ESG」「SNS」が食品価格を高止まりさせた経緯
図:「ESG」「SNS」が食品価格を高止まりさせた経緯

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。