[Vol.1787] 尊厳と秩序の放棄が「見えないリスク」増幅

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。76.19ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,457.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年01月限は15,950元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。24年09月限は563.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1515.4ドル(前日比5.70ドル縮小)、円建てで7,043円(前日比117円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月9日 14時30分時点 6番限)
11,468円/g
白金 4,425円/g
ゴム 323.8円/kg
とうもろこし 35,150円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「尊厳と秩序の放棄が『見えないリスク』増幅」
前回は、「中央銀行の購入動機は世界情勢の大きな潮流」として、2010年ごろ以降の世界情勢と各種コモディティ(国際商品)価格上昇の背景を確認しました。

今回は、「尊厳と秩序の放棄が『見えないリスク』増幅」として、「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした負の影響を確認します。

ここからは超長期視点のテーマ「見えないリスク」について書きます。2010年ごろから世界的な普及が始まったスマートフォン(SNS含む)が、世界に甚大な負の影響をもたらしている可能性があります。

スマートフォン(SNS含む)が、いつでも どこでも 誰でも 簡単に、外的刺激(映像・音声)と内的刺激(興奮・悦楽)を同時に享受できる環境を実現しました。これはわれわれ人類が「わがまま実現機」を手に入れたこととほとんど同じ意味です。

これによりスマートフォンが存在する社会(世界のほとんど)では、共通認識が表層的・短絡的になり、かつ多くの人々がわがままを通したりする(喜怒哀楽を常時開放する)ことが容認されやすくなりました。我慢する、味わう、などの時間と忍耐を伴う深い思考が欠落するためです。

例えば、教育の現場で時間をかけて行う人格形成よりも目先の得点アップや失敗しないことが優先されたり、飲食店で濃い味付けの料理でお客に短時間で分かりやすく満足感を与えることが優先されたりする場合があります。

こうしたことは、我慢したり、味わったりすることで生じる思考・感情(「尊厳」に近い)を放棄しているに等しいといえます。すぐに満足する結果を得たい・与えたい、というわがままが尊厳を放棄させていると言えるでしょう。

また、「期待」が「裏切られたという感覚」に変わった瞬間的に膨張する攻撃的な感情が、刃物のように鋭い言葉をつくることがあります。こうした言葉がSNSというわがままが容認される環境で束になり、対象者の心を深く傷つけます。たくさんの心ない投稿によって、一部のオリンピック選手などのアスリートや審判の心が傷ついていることは、報じられているとおりです。

誤解を恐れず言葉にすれば、投稿者の「期待」も「裏切られたという感覚」も、ある意味、投稿者のわがままだといえます。こうしたひぼう中傷を言い換えれば、勝手に期待し、勝手に裏切られた感覚になり、勝手に攻撃的な感情を膨らませ、勝手に攻撃する、そして束になった攻撃を、アスリートや審判が個人で受け止めている、となるでしょう。

わがまま(喜怒哀楽の常時開放)を閉じ込めることは、秩序を取り戻すことに似ています。ですが、人にとって、感情を開放させることよりも、閉じ込めることの方が難易度が高いことを考えれば、秩序を取り戻すことには大きな困難を伴います。

このように、スマートフォン(SNS含む)を起点に考えれば、すでに人類はこれらの機器・技術の登場によって、無自覚に、長い歴史の中で獲得してきた尊厳と秩序を放棄しつつあると考えられます(生き物として生きることに回帰しているようでもある)。

人類が、解消できない甚大な「見えないリスク」にさらされていることは、超長期視点で金(ゴールド)価格を支える要因になると、筆者は考えています。

図:「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした負の影響
図:「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした負の影響
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。