先週三つの政治経済的な出来事があった。 一つはFOMC(公開市場委員会)が開催され、利下げは見送りとなった。パウェルFRB議長は来年は利上げも利下げもないと述べ、利上げ判断は著しいインフレ率上昇が観測された場合に限るとした。このため、市場は、当面利上げの可能性は薄いとの判断で株価は上昇した。また米国経済に関しては、「経済成長率は2.0%と底堅さを維持し、失業率も3.5%と歴史的な低さを保っている、3回の利下げで住宅市場に持ち直しの兆しが浮かぶなど、景気失速の不安は和らいでいる」とした。こうした判断は、金融緩和を好む金相場にとっては、価格を押し下げるものだった。 二つ目の出来事は米中貿易協議が第一弾の妥結に至ったことである。中国は米国からの農産物やエネルギーなどの購入額を2020年に500億ドル(約5兆4,800億円)と約束。その代わり米国は12月15日に予定されていた1,600億ドル(約17兆5,000億円)分に対する15%の追加関税発動を見送り、また9月発動分を半分の7.5%にするとした。米中貿易摩擦が景気を悪化させていると見ていた市場は、この決定に安堵した。ただ、クリアカットな発表ではなかったため、先週末の株式市場は迷走したが、結果的には過去最高値を更新するに至った。そのためドルも急速に上がるというよりは上げたり下げたりした。8月1日に米国による9月からの追加関税発動発表を受けて上昇していた金価格は、米中協議の妥結で本来なら大幅安となるところ、トランプ大統領の煮え切らない態度により下落は最小限に留まっている。 三つ目は英国の総選挙において、ジョンソン首相率いる保守党が過半数を獲得し勝利したことである。英国国民ははっきりした欧州離脱を選択し、すでに合意済みの欧州との離脱案が今後議会で可決され、1月末に英国はEU連合から脱退することが決まった。この報道に英ポンドは急騰した。不透明な政治要因が一つ消えて地政学的リスクが少なくなったため、これも金価格を安くする要因となっている。こうした金を安くする要因が三つもあったにもかかわらず、金価格はそれほど下がってはいない。