原油相場が“世界協調減産合意”でも急騰しない理由③

著者:吉田 哲
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原油反発。主要株価指数の反発などで。20.00ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの低下などで。1,754.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。20年09月限は9,880元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。20年06月限は258.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで944.2ドル(前日比8.6ドル拡大)、円建てで3,316円(前日比19円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

東京市場は以下のとおり。(4月16日 18時32分頃 先限)
 5,966円/g 白金 2,650円/g 原油 24,820円/kl
ゴム 150.9円/kg とうもろこし(5番限)22,440円/t

●東京原油 1時間足 (単位:円/キロリットル)
東京原油 1時間足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードCX」より

●本日のグラフ「原油相場が“世界協調減産合意”でも急騰しない理由③」

今回は、前回の「原油相場が“世界協調減産合意”でも急騰しない理由②」に続き、OPECプラスが協調減産を実施することを決定したのにも関わらず、原油価格が急騰していないことについて考えます。

今回は4つ挙げた理由の3つ目の、現在の原油価格の水準を肯定するバイアスがかかっているため、について書きます。(1つ目は前回述べ、2つ目は以前の「日量1000万バレル削減では足りない理由」で関連する事を述べました)

20ドル台まで下落した原油市場は“買い手市場化”した面があると筆者は考えています。

原油価格が今の水準をが継続することを望む(売り手市場に戻さない)消費国側の思惑が働いている可能性があります。(産油国を政治的に有利にしない思惑も含め)

原材料の調達コストがこのまま低水準であれば、消費国がメリットを享受できます。

航空燃料を含む各種輸送用燃料、暖房用燃料、化学繊維、インク、プラスチック部品、農業用燃料、などの調達コストが下がることは、消費国にとって好ましいと言えます。

新型コロナの感染拡大で打撃を被っている消費国経済の回復のためには、なおさらです。

また、原油価格が上昇した場合、石油票を欲しがるトランプ大統領、原油を政治利用するサウジ・ロシアなどの産油国、環境汚染をまき散らす一部のエネルギー企業がその恩恵を受けることになります。

このような人物・国・企業に恩恵を与えてよいか? 政治的・倫理的に、反トランプ、反産油国・反エネルギー企業を訴える人の思惑も現在の水準を肯定する思惑を強めているとみられます。

さらには、原油価格を現在の水準で維持させた方が、産油国であり米国と政治的に対立関係にあるロシア、イラン、ベネズエラを、さらに弱体化させることができます。

このような背景によって、原油価格は現在の水準が肯定され、価格が反発していない可能性があります。

図:NY原油価格の推移 単位:ドル/バレル
NY原油価格の推移

出所:CMEのデータをもとに筆者推計

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。