2007年 サブプライム問題(前編)―デリバティブ投資手法の進化―破壊と創造の歴史【8】

著者:MINKABU PRESS
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◆世界的金融危機を招く5兆円の焦げ付き


 第8回は、2007年前後に米国で大問題となったサブプライム住宅ローン危機を取り上げます。10年以上も前の出来事ですが、2008年に世界の金融市場を揺るがしたリーマン・ショックを引き起こす原因となったこともあり、ご存じの方も多いことと思います。

 サブプライム住宅ローンとは、低所得者やクレジットカードの延滞を繰り返す人といった信用力の低い個人向けの住宅融資のことです。本来、そうした個人は住宅ローンを借りることは難しいはずでした。しかし、様々な要因や仕組みが組み合わさり、サブプライム住宅ローンは当時の米国において一大ブームとなるのですが、やがてそれらの返済は遅延、または返済不能となっていきます。

 信用力の低い個人への融資ですから、そうした事態は容易に想像できたはずです。焦げ付いた(返済不能に陥った)融資額は5兆円程度とされ決して少ない金額ではありませんでしたが、とてもリーマン・ショックを引き起こすような規模の金額には思えません。では、なぜサブプライムローン問題は生まれ、世界的な金融危機を招くことになってしまったのでしょうか。
 

◆住宅ローンを束ねるCDOの仕組み


 住宅ローンは借り入れる個人の信用力によって、主に信用力の高い「プライム(最優遇)ローン」と信用力の低い「サブプライムローン」、その中間の「オルトAローン」の3つに分類されます。様々な統計がいろいろなタイミングで発表されていますが、ある統計では当時の住宅ローンの融資残高はプライムが約6兆9000億ドル、サブプライムが約1兆5000億ドル、オルトAが約1兆1000億ドル、米住宅ローン全体で9兆5000億ドルと推計されています。

これら住宅ローンを束ねて証券化したデリバティブ金融商品を「RMBS(Residential Mortgage Backed Securities、住宅ローン債権担保証券)」といいます。更にサブプライムローンのRMBSを束ねて「CDO(Collateralized Debt Obligation、債務担保証券)」を組成します。

このCDOは、格付けが高くクーポン(利回り)の低い「シニア(優先)」、格付けが低くクーポンの高い「エクイティ(劣後)」、その中間の「メザニン(中二階)」の各トランシェ(枝)に分けられます。高格付け・低クーポンの「シニア」は主に銀行などのリスク回避型投資家に、低格付け・高クーポンの「エクイティ」はヘッジファンドなどのリスク選好型投資家に販売されます。そして、「メザニン」は他のCDOのメザニンと束ねられ、合成CDOの組成に利用されます。



 信用力の低いサブプライムローンのRMBSが焦げ付くリスクを、束ねることによって低下させる仕組みは次のような考え方に基づいています。例えば焦げ付くリスクが20%のRMBSでも、無相関の3つを集めてCDOを組成すれば、全てが焦げ付くリスクは0.8%(=20%×20%×20%)に過ぎないというものです。現実には3つのRMBSは無相関ではありませんでしたが、こうした考えに基づいて格付け会社はこれらの金融商品に高い格付けを付与していきました。

 また、金融保証保険業務を専門に行う米国の保険会社(通称モノライン)を使って、これらの金融商品の格付けを更に高めます。元々モノラインは地方債の格付けを保証する業務を行っていましたが、証券化の進展とともに金融商品の保証業務に乗り出し成長を享受します。しかし、サブプライム住宅ローンが問題化することにより、それらを保証するモノライン自身が格下げされ、格下げされたモノラインが保証する金融商品が更に格下げされてしまうという悪循環につながっていきます。
 

◆バブル発生の原因とピークアウト


 このように様々な問題を抱えるサブプライム住宅ローンが一大ブームとなった背景には、ローンを借りる側の需要が増えたというよりも、貸す側の供給が増えたことがあります。これには米国の住宅価格の高騰が大きく影響しています。2期目となった米ブッシュ大統領が、2005年に格差是正政策の一環として低所得者層にも家が持てるように税制優遇を行いました。加えて、グリーンスパン氏が議長を務めていた米連邦準備制度理事会(FRB)は、2000年のITバブル崩壊以降に低金利政策を実施し、当時インフレ懸念があったにもかかわらず利上げを緩やかに制御していました。

これらの政策などから住宅バブルが発生、2000年から2006年の間に住宅価格は2倍に跳ね上がります。価格が上がり続ける限り、債務者が返済不能に陥っても住宅を売却すればローンを完済して「おつりがくる」といった算段で、貸す側の融資基準が緩んでしまい、低所得者層でも安易に住宅ローンを借りられるようになりました。


融資の安易さを示す具体例が通称「NINJA(ニンジャ)ローン」といわれる融資です。これは「収入なし(no income)」、「仕事なし(no job)」、「資産なし(no assets)」の頭文字「NI、NJ、NA」からなる造語ですが、つまりは全く返済の可能性がないと思われる人たちにも住宅ローンが貸し付けられました。そして、このような過剰なまでの融資は、ことごとくRMBSとして証券化され、CDOに束ねられて売り飛ばされました。これらは住宅価格が上がり続けている限りは問題は起きなかったのですが、やがて住宅価格はピークアウトを迎えます。

 まず、2005年9月前後から戸建ての新築・中古住宅販売が減少に転じ、同じ頃から米国の宅建業者株が急落します。そして、2006年5月から米国の住宅価格が下がり始めました。この頃からサブプライム住宅ローンに対する懸念が台頭し、住宅ローン会社が業務停止に追い込まれていきます。彼らはサブプライム住宅ローンをすぐに証券化し、転売することで焦げ付きリスクを投資家に転嫁しようとしますが、サブプライム住宅ローンに対する懸念で住宅ローン証券の転売による自転車操業ができなくなり、資金繰りが行き詰まります。この頃からサブプライム住宅ローンの好循環は悪循環へと転じていったのです。(後編につづく)

このコラムの著者

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