[Vol.1478] インドとトルコはリーマンショック後に非西側化

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。73.31ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,032.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年09月限は12,160元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。23年06月限は513.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで923.15ドル(前日比5.15ドル拡大)、円建てで4,113円(前日比32円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月11日 18時20分頃 6番限)
8,756円/g
白金 4,643円/g
ゴム 210.9円/kg
とうもろこし 40,120円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「インドとトルコはリーマンショック後に非西側化」
前回は、「『脱米ドル』ではなく『脱西側』を目指す非西側」として、リーマンショックを起点に考える、非西側の金(ゴールド)保有増加の過程を考えました。

今回は、「インドとトルコはリーマンショック後に非西側化」として、リーマンショック以降、金(ゴールド)の保有量増加が目立った国(ロシア、中国、トルコ、インド、カザフスタン)の自由民主主義指数を確認します。

「自由民主主義指数」は、ヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所が公表しています。行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由度や民主度をはかる複数の観点から計算され、0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、非民主的な傾向が強い、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

以下の図のとおり、特に金(ゴールド)の保有量の増加幅が大きいロシアの同指数は、1990年代前半、旧ソ連崩壊を機に民主化が進むことが期待され、一時的に上昇しました。しかし、1999年に第二次チェチェン紛争が勃発してプーチン氏(現大統領)の影響力が急拡大した直後に、急低下しました(2022年の同指数は0.071)。

ロシアに次いで保有量の増加幅が大きい中国は恒常的に「非民主的」な国です(2022年の同指数は0.040)。

インドとトルコは、リーマンショック後に同指数が急低下した国です。インドの同指数は、ショック直後から急低下し、トルコの同指数は、ショック後に低下に拍車がかかりました。同ショック前の2000年代前半、インドもトルコも同指数が0.5を超える、どちらかといえば「民主的な国」でした。

人口の増加率や経済成長率が比較的高く、民主的であることをよしとする西側と、今後も同調することが予想されていたインドとトルコでしたが、同ショック直後から猛烈なスピードで「向こう側」に行ってしまいました。

両国とも、2010年以降の西側の方針(石炭の使用を否定する環境問題を提唱したり、信用リスク膨張を承知で金融緩和を実施したりしたこと)に賛同できない環境にあったことが背景にあると考えられます(以前の「[Vol.1469] しないはずの『置き去り』に非西側は失望」で述べた「置き去り」と関連)。

こうした指数の動きは、非西側主要国で「脱西側」が進んでいることを示唆しています。金(ゴールド)の保有量の動向は、非西側主要国で、西側と経済・文化・思想など、さまざまな分野で距離を置く「脱西側」が進んでいることを示していると、筆者は考えています。

リーマンショック後に膨れ上がった「西側」と「非西側」の分断が解消しない限り、非西側主要国における同指数の低下・低迷、金(ゴールド)保有量増加の傾向は、変わらないと考えます。

ウクライナ危機が分断を解消させない強力な「楔(くさび)」の役割を果たしているため、状況を変えることは困難でしょう。今後も長期的に、こうした状況が続く可能性があると、筆者は考えています(以前の「[Vol.1475] 円建て金は最高値更新、ドル建ては最高値タイも」で述べた、七つのテーマの一つ「見えないリスク」にも関連)。

図:リーマンショック以降、金(ゴールド)の保有量増加が目立った国の自由民主主義指数
図:リーマンショック以降、金(ゴールド)の保有量増加が目立った国の自由民主主義指数

出所:V-Dem研究所(スウェーデン)のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。