[Vol.1790] 情報の大衆迎合とSNS普及が株価急落の一因

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。77.39ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,493.45ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年01月限は16,025元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年09月限は567.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1550.35ドル(前日比0.25ドル拡大)、円建てで7,220円(前日比24円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月15日 16時53分時点 6番限)
11,645円/g
白金 4,425円/g
ゴム 326.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「情報の大衆迎合とSNS普及が株価急落の一因」
前回は、「欧米株価指数は悲観論を反映しやすくなった」として、S&P500の年間最大上昇率および下落率(日次終値ベース)を確認しました。

今回は、「情報の大衆迎合とSNS普及が株価急落の一因」として、「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした市場への負の影響を確認します。

以前の「[Vol.1787] 尊厳と秩序の放棄が『見えないリスク』増幅」で述べたとおり、筆者は2010年ごろ以降、世界で「見えないリスク」が増幅しはじめたと考えています。世界的な普及が始まったスマートフォン(SNS含む)が、世界に甚大な負の影響をもたらしている可能性があるためです。

スマートフォン(SNS含む)が、いつでも どこでも 誰でも 簡単に、外的刺激(映像・音声)と内的刺激(興奮・悦楽)を同時に享受できる環境を実現しました。これはわれわれ人類が「わがまま実現機」を手に入れたこととほとんど同じ意味です。

これによりスマートフォンが存在する社会(世界のほとんど)では、我慢する、味わう、などの時間と忍耐を伴う深い思考が欠落し、共通認識が表層的・短絡的になりやすくなります。そして、わがままを通す(喜怒哀楽を常時開放する)ことが容認されやすくなります。

例えば、教育の現場で時間をかけて行う人格形成よりも目先の得点アップや失敗しないことが優先されたり、飲食店で濃い味付けの料理でお客に短時間で分かりやすく満足感を与えることが優先されたりする場合があります。

我慢したり、味わったりすることで生じる思考・感情(「尊厳」に近い)を放棄しているに等しいといえます。すぐに満足する結果を得たい・与えたい、というわがままがそこに存在しています。

また、「期待」が「裏切られたという感覚」に変わった瞬間的に膨張する攻撃的な感情が、刃物のように鋭い言葉をつくることがあります。こうした言葉がSNSというわがままが容認される環境で束になり、対象者の心を深く傷つけます。たくさんの心ない投稿によって、オリンピック選手などのアスリートや審判の心が傷ついていることは、報じられているとおりです。

わがまま(喜怒哀楽の常時開放)を封じ込めることは、秩序を取り戻すことに似ています。ですが、人にとって、感情を開放させることよりも、封じ込めることの方が難易度が高いことを考えれば、秩序を取り戻すことは大きな困難を伴います。

このように、スマートフォン(SNS含む)を起点に考えれば、すでに人類はこれらの機器・技術の登場によって、解消できない甚大な「見えないリスク」にさらされているといえます。

人は無自覚に、長い歴史の中で獲得してきた尊厳と秩序を放棄しつつあると考えられます(生き物として生きることに回帰しているようでもある)。そしてこの点が市場に与えている影響については、以下のように考えられます。

スマホ(SNS含む)の登場により、わがままを通す(喜怒哀楽を常時開放する)ことが容認されやすくなり、情報の受け手は無意識にこれまで以上に「見たいものを見たい」と思うようになりました。「見たいものを見たい」と思う人が増えるのと同時に、「見たくないものは見ない」と思う人が増えました(「おすすめ機能」がそれを助長している)。

情報の発信者はこうした流れを感じ取り、これまで以上に「受け手が見たいものを見せたい」と思うようになりました。そして「情報の大衆迎合」が発生し、その結果、一部で(もちろん全てではない)、表層的で短絡的、思惑(感情)重視の情報が飛び交うようになり、市場に大衆の思惑が反映されやすくなったと考えられます。

特に思惑が優先されやすい株式市場では、大衆の楽観や悲観が極端な上昇や下落を発生させる一因になっていると考えられます。楽観と悲観、どちらが大衆の間で膨らみやすいかと問われれば、人間の特性上、「悲観」でしょう。このことは、前回述べた欧米の株式市場が悲観的になりやすくなったことと一致します(時系列的にも)。

先日の株価急落発生後、複数の著名人が一連の株価急落の一因に「SNS」を挙げています。この事とも、おおむね一致していると感じています。

図:「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした市場への負の影響
図:「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした市場への負の影響
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。