[Vol.2102] 国際エネルギー機関の三つのシナリオ

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。ウクライナ戦争の停戦観測などで。57.85ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。4,199.95ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。26年01月限は15,195元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。26年01月限は445.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2627.95ドル(前日比27.70ドル拡大)、円建てで13,956円(前日比23円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月26日 17時10分時点 6番限)
21,308円/g
白金 7,352円/g
ゴム 334.4円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY原油先物 月足 単位:ドル/バレル
NY原油先物 月足 単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「国際エネルギー機関の三つのシナリオ」
前回は、「気温上昇とCO2排出量増加は1950年代から」として、世界の二酸化炭素排出量(国・地域別)(土地利用による吸収・放出を除く)を、確認しました。

今回は、「国際エネルギー機関の三つのシナリオ」として、IEAのシナリオ別の世界平均気温の上昇幅(産業革命前比)(2025年時点)を、確認します。

パリ協定の概要と、同協定と親和性がある国際エネルギー機関(IEA)が11月12日に公表したWorld Energy Outlook(WEO)2025で述べている三つのシナリオを確認します。

パリ協定は、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前(1850年から1900年ごろ)に比べ、長期視点でプラス2度に抑えることを世界共通の目標としています。努力目標として、プラス1.5度に抑えることも掲げています。

IEAは、この世界の平均気温の上昇幅について具体的な数値を示した上で、複数のシナリオを立てています。

「現行政策シナリオ(Current Policies Scenario:CPS)」「公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario:STEPS)」「ネット ゼロ シナリオ(Net Zero Emissions by 2050 Scenario:NZE)」です。

現行政策シナリオ(CPS)は、現在の法律などに基づいた政策のみを反映し、将来の追加的な政策強化や新しい公約を前提としていない、「今ある施策をそのまま継続したらどうなるか」というシナリオです。2100年の世界の平均気温の上昇幅(産業革命前比)は、プラス2.9度と、2度としたパリ協定の目標を達成できないことが想定されています。

公表政策シナリオ(STEPS)は、各国がパリ協定に基づき表明している目標(国別貢献目標=NDC)などを反映した、「もしその通りに実施した場合にどうなるか」というシナリオです。2100年の世界の平均気温の上昇幅(産業革命前比)は、プラス2.5度と、このシナリオも同協定の目標を達成できないことが想定されています。

ネット ゼロ シナリオ(NZE)は、今後、政策、技術、投資などがどう動けば同協定の目標を達成できるか、現状と対策のギャップを明らかにするための基準とも言えます。2100年の世界の平均気温の上昇幅(産業革命前比)は、プラス1.5度と、プラス2度の目標だけでなく、努力目標のプラス1.5度もほぼ、達成しています。

同シナリオは、化石燃料の燃焼によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量を、2050年ごろまでに「実質ゼロ(Net Zero)」に近づけるための道筋とも言えます。実質ゼロは、化石燃料の代替の発見、電動化、エネルギー効率アップなどによる同ガスの削減だけでなく、除去や吸収などの高度な技術が広く展開していることを前提にしています。

技術革新によって実質ゼロ(Net Zero)を成し遂げ、その延長線上でパリ協定の努力目標である産業革命前比プラス1.5度を達成する、技術革新で温暖化を食い止めるシナリオがまさに、ネット ゼロ シナリオ(NZE)です。

以下の通り、実質ゼロ(Net Zero)を成し遂げた2050年ごろの世界の平均気温は産業革命前比プラス1.65度と、やや1.5度を上回るも、2100年には1.5度に抑えられることが想定されています。

一方、特に新しい策を講じない現行政策シナリオ(CPS)は、2100年にプラス2.9度になることが想定されています。現在表明している目標を守る公表政策シナリオ(STEPS)でも、2100年にプラス2.5度になってしまいます。

気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)は、2.9度上昇した世界を「非常に高いリスク(Very High Risk)」に位置付けています。

想定されるリスクとして、極端気象の常態化、海面温度上昇の加速、食料危機の頻発、水資源の深刻な不足、感染症リスクの増加、大量移住と地政学的リスクの拡大、生態系崩壊が広範で発生、経済的損失などが挙げられます。人類と地球システムの安定性が強く脅かされる世界だと言えるでしょう。

図:IEAシナリオ別の世界平均気温の上昇幅(産業革命前比)(2025年時点) 単位:度
図:IEAシナリオ別の世界平均気温の上昇幅(産業革命前比)(2025年時点) 単位:度
出所:IEAの資料を基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。