生き残った米シェール業者はどんどんと筋肉質になっている!?

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。40.71ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの低下などで。1,896.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)、國慶節のため休場(10月1日から8日)

上海原油(上海国際能源取引中心)、國慶節のため休場(10月1日から8日)

金・プラチナの価格差、ドル建てで1028.9ドル(前日比4.9ドル拡大)、円建てで3,501円(前日比13円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月8日 20時54分頃 先限)
6,454円/g 白金 2,953円/g
ゴム 192.0円/kg とうもろこし 24,170円/t

●NY原油先物 日足 (単位:ドル/バレル)
NY原油先物日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「生き残った米シェール業者はどんどんと筋肉質になっている!?」

前回は「トランプ氏の感染告白ツイートの影響を分析する」として、先週金曜日のトランプ大統領のコロナ感染を告白するツイートが、金と原油相場に与えた影響について、考えました。

今回は「生き残った米シェール業者はどんどんと筋肉質になっている」として、先月、EIA(米エネルギー省)が公表した、シェール主要地区の新規1油井当たりの原油生産量に、注目します。

以前の「なぜ減らない!?米シェール生産量」で書いた通り、EIAが提唱する米国内7つのシェール主要地区の新規1油井当たりの原油生産量(7地区平均)は、原油相場が急落した今年の春にやや減少したものの、その後すぐさま、急増しはじめました。

以下は、7つの主要地区別の新規1油井当たりの原油生産量です。

アパラチア、へイネスビルといったシェールガスを主な生産物とする地区を除く、5つ全てで、直近のデータ(2020年8月分)が、原油相場が急落する前の水準を上回り、かつ、統計史上最高となっていることがわかります。

例えば、グレーのラインの“バッケン地区”では、3月から4月にかけて、同地区最大級のシェール業者だった“ホワイティング社”が破綻しました。

同時期のバッケン地区の新規1油井あたりの原油生産量が急減したことは、ホワイティング社の破綻が強く影響しているとみられます。

しかし、その後、このバッケン地区を含む5つの地区で、新規1油井あたりの原油生産量が、急増しはじめました。

急落したあとも、原油相場が目立った反発をみせず、シェール業者にとって収益の“単価”が回復せず、シェール業者に厳しい状況が続いていました。

シェール業者は、この“単価”の不都合を、“量”である原油生産量を増加させてカバーする必要があり、しかも同時に、コストを削減することが求められていたわけです。

生産量を増やしながら、コストを削減するために、シェール業者がとった行動は、新規開発を停止し、新規開発にかかるコストを削減すること、そして、すでに掘削してあり、生産開始までの最終的な作業(坑井に、砂や水、少量の化学物質を注入して、末端を破砕させたりする作業)である仕上げを行っていない井戸から“効率よく”原油を生産することだったと、各種データの推移から推察されます。

実は、シェール業者の、稼働リグ数を減らし、新規1油井当たりの原油生産量を増加させる動きは、2014年半ばから2016年後半にかけておきた、大規模な原油相場の急落・低迷として知られる“逆オイルショック”の際にも、見られました。

原油価格の急落・低迷は、行き過ぎれば、多くの業者の破綻を招きますが、逆にそれが、生き残った業者をさらに筋肉質な体質に変える要因にもなると、考えられます。

石油を伝統産業とする米国ならではの現象と言えそうです。

図:米シェール主要地区の新規1油井当たりの原油生産量 単位:バレル/日量
米シェール主要地区の新規1油井当たりの原油生産量 単位:バレル/日量

出所:EIA(米エネルギー省)のデータより筆者作成

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。