“三重苦”にあえぐ金相場

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。41.41ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,868.90ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。21年01月限は14,490元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年01月限は261.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで996.35ドル(前日比2.85ドル拡大)、円建てで3,383円(前日比4円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月12日 19時16分頃 先限)
6,342円/g 白金 2,959円/g
ゴム 235.8円/kg とうもろこし 24,990円/t

●NY金先物 日足 (単位:ドル/トロイオンス)
NY金先物日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「“三重苦”にあえぐ金相場」

前回は「バイデン氏の勝利が確定したら、原油価格は下がるのか!?」として、11月6日(金)から11日(水)日本時間夕方までの、主要銘柄の騰落率を確認しました。

今回は「“三重苦”にあえぐ金相場」として、11月9日(月)から足元までの、金相場の5つのテーマの状況について確認します。

筆者は、金市場には少なくとも5つのテーマが存在すると筆者は考えています。数あるコモディティ(商品)銘柄の中でも、金(ゴールド)は変動要因が多岐にわたるため、材料を点で見てはいけません。世界中でこんなにコロナが拡大して不安が広がっているのに、なぜ金相場が下がることがあるのか?と疑問を持つ方もいるかもしれませんが、その答えはシンプルです。

(1)前提として、金市場には少なくとも5つテーマがある。→有事だけが金市場の変動要因ではない

(2)5つのテーマが市場に常に別々に作用しており、影響力が相殺され、価格が決まっている。→有事で上昇圧力がかかっても、別のテーマでそれを相殺するだけの下落圧力がかかれば、価格は下落する。

金市場の変動を考える上で、このようなメカニズムを理解することは必要不可欠だと、筆者は考えています。

直近の状況で言えば、例えば「代替通貨」は、先週、金相場に上昇圧力をかけたとみられます。前回述べたとおり、バイデン氏優勢の報を受け、安堵感、解放感、安心感などのプラスのムードが生じ、景気回復期待が生まれ、リスク回避のためにそれまで買われていたドルが売られ、ドル安が生じました。

このドル安が、“ドルの代わり”という意味で、金の上昇要因となりました。まさに、“代替通貨”の側面で金が買われたわけです。しかし、今週は、この“代替通貨”においては、先週と真逆の状況にあります。

先週生じたプラスのムードに加え、ワクチンの効果が強く期待できる趣旨の報道があったことで、今週は“熱狂的・盲目的な”市場環境になっているため、株もドルも、買われています。過熱感が非常に強まっていると、言えます。

株高は“代替資産”、そして(先程のドル安の対極にある)ドル高は“代替通貨”の側面で、金に下落圧力をかけます。さらに、過熱感を伴った市場のムードは、それまであった、米大統領選挙や新型コロナの感染拡大などをきっかけとしたさまざまな不安を“見えなくする”(消し去るわけではない)働きをし、“有事のムード”を低減させています。この点もまた、金に下落圧力をかけています。

今週は、金相場は“三重苦”にあえいでいると言えると思います。

ただ、少し時間軸を長くして考えれば、各種市場が、浮足立っている今の状態から、先週までのような、リスクを一定程度意識したある意味冷静な環境に戻れば、再び、ドル安をきっかけとした金高が見られるようになると、筆者は考えています。

また、メインシナリオではないものの、トランプ氏が法廷闘争を激化させた場合、有事のムード、代替資産の2つから、上昇圧力がかかる可能性もあります。

条件は複数ありますが、年内あるいは年明けの遅くない段階で、2000ドルを回復する可能性はあると、現段階では考えています。

図:足元の金相場の環境
足元の金相場の環境

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。