◆マザーズ市場とは
第4回目では、マザーズ指数について取り上げます。この指数は正式名称を「東証マザーズ指数」と言い、マザーズ市場に上場する内国普通株式全銘柄を対象として算出される時価総額加重平均型の指数です。ちなみに、マザーズ(Mothers)とは「Market of the high-growth and emerging stocks」の頭文字を取った略称です。
日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所(東証)では市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ、およびTOKYO PRO Marketの5つの市場を提供しています。この中でマザーズ市場は、近い将来に「市場第一部へのステップアップを視野に入れた成長企業向けの市場」と位置づけられており、1999年11月に開設されました。2021年2月末現在、346銘柄(出所:東証マザーズ指数基礎情報)が上場しています。
東証が提供する各市場のイメージ
出所:東京証券取引所 東証マザーズ指数先物より抜粋
東証は、このマザーズ市場に上場を申請する企業に対して、多くの成長企業に資金調達の場を提供するという観点から、規模や業種などによる制限を設けていません。その一方で、同市場への上場を申請する企業には「高い成長可能性」を求めています。高い成長可能性を有しているか否かについては、主幹事証券会社がビジネスモデルや事業環境などを基に評価・判断を行います。
◆上場基準の厳格化
ただ、マザーズ市場の上場基準は市場第一部や市場第二部、JASDAQに比べて大幅に緩いことから、起業して間もない企業や債務超過の企業でさえ新規に上場することが可能です。そのため、同市場に上場する企業の中には10年もしないうちに経営破綻する企業が散見されました。
例えば、マザーズ市場への上場第1号であったリキッドオーディオ・ジャパンとインターネット総合研究所(IRI)は、上場当時がまさにITバブルの真っ盛りという時代の波に乗り、前者が公募価格1株300万円に対して初値が610万円、後者が公募価格1株1170万円に対して初値が5300万円と凄まじい人気となりました。
ところが、前者は前社長の逮捕後に親会社が破綻、後者も上場していた子会社の経営破綻破などによって決算数字が確定できず、それぞれ上場廃止へと追い込まれてしまいます。また、これらほどではないものの、2000年のITバブル崩壊後や2006年のライブドア・ショック後に株価が10分の1以下へと急落する銘柄が多発するなど、乱高下が非常に激しい性格の市場でした。
そこで東証は2011年3月に、「市場第一部へのステップアップを視野に入れた成長企業向けの市場」というコンセプトを明確にするため、マザーズ上場会社が上場後10年を経過した場合、上場廃止基準を市場第二部と同水準に引き上げるという制度を設けます。
これにより、求められる最低の時価総額は5億円以上から10億円以上へ(流通株式時価総額は2.5億円から5億円へ)、同株主数は150人から400人へ、同流通株式数は1000単位から2000単位へとそれぞれ引き上げられたのです。
マザーズ上場10年経過後の適用基準(上場廃止基準)の見直し
出所:東京証券取引所 マザーズ上場10年経過後の適用基準より抜粋
加えて、上場後10年を経過しても市場第一部へステップアップできなかったマザーズ上場会社は、マザーズにとどまるか、または市場二部へ変更するか、どちらかを選択しなければならないという制度も設けました(「10年ルール」と呼ばれています)。先ほどの「東証が提供する各市場のイメージ」図において、マザーズ市場から市場第二部へ伸びている矢印の「10年」はこれを意味しています。そして、マザーズ上場の継続を選択した場合、5年を経過するごとに再び市場選択を課すことにしました。こうした制約を設けた背景には、恐らく東証がマザーズ上場企業に求める「高い成長可能性」を上場後10年以内に現実化せよ、ということと、投資家保護の観点が含まれていると推察されます。
◆東証マザーズ指数とは
このようなマザーズ市場の指標となる東証マザーズ指数は、2003年9月12日の時価総額を1000ポイント(基準値)として、2003年9月16日より算出されています。ちなみに同じ時価総額加重平均型の指数である東証株価指数(TOPIX)の基準値は100ポイントですが、それ以外の算出方法や浮動株比率の見直し方法などはTOPIXと同じですので、指数の算出については下記のURLから本シリーズの第1回「TOPIX(前編・後編)」をご参照ください。
投資対象として株価指数を考える【1】 TOPIX(前編)
https://fu.minkabu.jp/column/793
投資対象として株価指数を考える【1】 TOPIX(後編)
https://fu.minkabu.jp/column/802
出所:refinitiv
マザーズ指数は、指数を構成する銘柄が「市場第一部へのステップアップを視野に入れた成長企業」であるだけに、さまざまな制約を設けてもなお、成熟企業を多く含む日経平均株価やTOPIXと比較して変動率が高くなる傾向があります。加えて、市場変更を行う銘柄が他の市場と比較して多い傾向にあります。それは構成銘柄の全てが「市場第一部へのステップアップ」を視野に入れているほか、上場10年経過後の適用基準を課せられているためと考えられます。
特に「市場第一部へのステップアップ」が有力視される銘柄は、それなりに大きく成長することができた銘柄ですので、マザーズ市場でも人気があり、時価総額も大きくマザーズ指数の構成比率が高くなっている場合があります。
もちろん、指数に占める構成比率の高い銘柄が市場変更を行っても、基準時価総額の調整によって指数値の連続性は維持されますが、構成比率の変化により市場変更の前後で指数の変動に係る特性などが大きく異なるものになる可能性があります。
出所:東証マザーズ指数 浮動株調整後時価総額上位10位銘柄データ
実際に、2020年1月末時点と2021年1月末時点の同指数の浮動株調整後時価総額上位10位銘柄を比較すると、トップのメルカリ<4385>は変わっていませんが、構成比率が5.7%から10.2%へと大きく増えていることが分かります。また、ランキング2位以下の顔ぶれも大きく変わっていますし、同じ銘柄であっても構成比率には変化がみられます。(後編につづく)