[Vol.979] 英国海軍を出し抜いた日本国籍のタンカー

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。63.07ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,787.65ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。21年09月限は13,655元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年06月限は412.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで568.7ドル(前日比2.8ドル縮小)、円建てで1,958円(前日比12円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月19日 18時12分頃 先限)
6,211円/g 白金 4,253円/g
ゴム 229.5円/kg とうもろこし 32,530円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「英国海軍を出し抜いた日本国籍のタンカー」

前回は、「復活するか米国の原油生産量」として、今月(2021年4月)、EIA(米エネルギー省)が公表した2つの月次統計から、米国全体の原油生産量と米シェール主要地区の原油生産量について書きました。

今回は、「英国海軍を出し抜いた日本国籍のタンカー」として、「日章丸事件」のきっかけとなった、日本国籍のタンカーについて書きます。

“日承丸をアバダンに送る!”、“店主(社長)、それはリスクが高すぎます!”

欧米の石油メジャー(国際石油資本)が世界中の石油を独占し、調達先のほとんどを奪われた日本の民間石油会社、國岡商店の執務室ではこのような会話がなされていました。出光興産の創業者である出光佐三氏のビジネスマンとしての生涯を、実話をもとに描いた「海賊とよばれた男」のワンシーンです。

1950年代前半、石油メジャーの一角を成すアングロ・イラニアン(BP:ブリティッシュ・ペトロリアムの前身)がイランの石油を独占。不当に同国の原油を持ち出されないよう、イギリス海軍がペルシャ湾、オマーン湾などの要衝を厳しく監視する中、出光興産が保有する当時としては日本最大級のタンカー「日章丸(作品中では日承丸。厳密には日章丸二世)」が、イランの港アバダンに向かいました。

当時、イギリス海軍を出し抜いた日章丸の航海は、世界的な事件として報じられました。幾多の難を乗り越え、イラン産原油を積み、無事日本に戻りますが、積み荷の所有権を主張したアングロ・イラニアンが出光興産を東京地裁に提訴しました。一連の出来事は、「日章丸事件」と呼ばれました。

“リスクが高すぎます!”と社長を諫めた社員の言葉どおり、また、作品中でもスリリングなシーンで描かれているとおり、神戸港を出て川崎港に戻るまでのおよそ40日間の航海は、非常に高いリスクを伴うものでした。

なぜ、このようなリスクを伴う航海が必要だったのでしょうか。それは、日本の主要なエネルギー源が石炭から石油に代わろうとしていたため、そして日本でモータリゼーション(自動車化)が本格化しつつあったためです。安くて質の高い石油を手に入れることは、国益に直結したのです。「イラン」と聞くとふと、この作品と当時の日本の様子を思い浮かべます。

図:日章丸の航路(1953年)


出所:各種資料より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。