[Vol.1279] 原油高が続いてしまう可能性は否定できない

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。96.06ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反落などで。1,702.45ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年09月限は11,705元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年09月限は614.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで881.9ドル(前日比6.6ドル縮小)、円建てで3,957円(前日比7円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(7月15日 17時38分頃 6番限)
7,569円/g
白金 3,612円/g
ゴム 240.4円/kg
とうもろこし 46,290円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「原油高が続いてしまう可能性は否定できない」

前回は、「バイデン氏がサウジに出向き原油増産の直談判に」として、米国国内における米民主党への支持状況について、確認しました。

今回は、「原油高が続いてしまう可能性は否定できない」として、バイデン氏がもくろむ「サウジ増産」のほか、サウジを含む主要産油国の原油生産の状況について、書きます。

バイデン氏がさまざまな意味でもくろむ「サウジ増産」ですが、仮に増産をさせることができたとしても、世界全体の原油生産量は増加しない可能性があります。以下のグラフは、今年2月(ウクライナ侵攻発生)と6月の原油生産量の変化です。

ウクライナ危機発生後、世界全体の原油生産量は「減少」しています(12万バレル減)。サウジは増産していますが(34万バレル増)、この増産分はカザフスタン(旧ソ連、OPECプラスの非OPEC側の国)の減産分で相殺されてしまっています(36万バレル減)。

また、米国の増産分(69万バレル増)は、ロシアの減産分(74万バレル減)に相殺されています。つまり今後も、米国やサウジが増産をしても、それを相殺して余りあるだけの減産をする国によって、増産の効果がかき消されてしまう可能性があるわけです。

そもそもバイデン氏は、今回の中東歴訪で、サウジが増産することを約束させることができない可能性があります。以下のとおり、複数の「できない」理由が束になっているためです。

(1)米国はサウジにとって望ましい大型の長期契約を結ぶことができない。
米国にとって増産をしてほしいのは今だけ。増産分を米国が買うかどうかは、わからない。長期的には「脱炭素」推進のため原油は不要。
(2)人権問題で強く非難したムハンマド皇太子との関係を改善できるかわからない。
バイデン氏は、サウジの著名記者殺害事件(2018年)にムハンマド氏が関与したと明確に結論付けた。これをきっかけに両国の関係はぎくしゃくした。
(3)「脱炭素」推進を撤回できず、原油否定(≒産油国否定)の旗を下すことができない。
バイデン氏は、2020年の大統領選で、環境問題を重視していないとトランプ氏を激しく批判。大統領就任直後、すぐさまパリ協定に復帰し、「脱炭素」推進を世界に強烈にアピールした。バイデン氏の基本的姿勢は「産油国否定」ともとれる「脱炭素」。
(4)この交渉が「中間選挙対策」という魂胆が透けている。
インフレが米国国民(特に共和党支持者)の重大な関心事だと、サウジ側も承知しているはず。サウジの増産が、人権批判・石油批判をした人物の、目先の選挙対策だということも承知しているはず。

バイデン氏がこうした「できない」理由を乗り越えることは、非常に難易度が高いと、筆者は考えます。ただ、「それでもサウジに行く」わけですので、なにか秘策があるのかもしれません。

サウジが、ロシアやその他の産油国や、近隣の中東諸国との関係をふいにしたとしても、「脱炭素」が進んで原油が不要になる時代が訪れたとしても、未来永劫(えいごう)、米国が、サウジの政治、経済、文化を保護する保障をすれば、交渉は成立するかもしれません。

仮に秘策によってサプライズが起き、原油相場が下落したとしても、下落の幅や期間は、限定的なものになると筆者は考えます。

サウジ増産は(金利引き上げもそうですが)、一時的なインフレ沈静化要因にはなり得ても、ウクライナ危機が激化して始まったコスト・プッシュ型のインフレを沈静化させる(「[Vol.1276] 原油は「ウクライナバンド」に支えられ高止まり」で述べた原油相場にウクライナバンドを下回らせる)要因にはならないと考えるためです。

増産をさせることに成功し、一時的であれ、インフレを沈静化させることができれば、共和党・民主党支持者、両方の支持を得ることができ、同時に、インフレにあえぐ西側諸国から拍手喝采を得られるでしょう。

しかし、逆にできなかった場合に負うダメージは、大きくなる可能性もあります。今週13日から16日、バイデン氏の動向に注目です。

図:主要国および世界全体の原油生産量の変化(2月と6月を比較)単位:千バレル/日量
図:主要国および世界全体の原油生産量の変化(2月と6月を比較)単位:千バレル/日量

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。