[Vol.1283] 不可逆的機運「脱炭素」起因の長期需要増加観測

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。96.50ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。1,716.65ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年09月限は11,665元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年09月限は659.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで851.4ドル(前日比3.3ドル縮小)、円建てで3,795円(前日比23円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(7月22日 17時26分頃 6番限)
7,571円/g
白金 3,776円/g
ゴム 236.5円/kg
とうもろこし 44,350円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「不可逆的機運「脱炭素」起因の長期需要増加観測」

前回は、「環境配慮はプラチナの需要を維持する側面あり[2]」として、「環境配慮」とプラチナの需要のうち大きな割合を占める「自動車排ガス浄化装置向け需要」との関係について、筆者の考えを述べました。

今回は、「不可逆的機運「脱炭素」起因の長期需要増加観測」として、「環境配慮」起因の、超長期視点のプラチナの需要について、筆者の考えを述べます。

環境配慮の動きは「脱炭素」が旗印となり、世界を席巻しています。足元では、先述のとおり、プラチナの需要を減少したり維持したりする要因とみられますが、超長期的視点で見た場合、「脱炭素」は需要を増加させる要因になると、考えられます。

環境配慮先進国である欧州主要国、そして日本などは、乗り物や発電所のタービンを動かしたり、熱を発生させたりするために使用するエネルギーを、CO2(二酸化炭素)を排出する化石燃料から「水素」に切り替え、「水素社会」を目指す方針を示しています。

プラチナは、水の電気分解の仕組みを利用した「水素の精製装置」や、「FCV(燃料電池車)の発電装置」に利用されるケースがあります。水素の精製装置で用いる電気が再生可能エネルギー由来だった場合、そこで発生した水素は「グリーン水素」と呼ばれます。

水素は無色透明ですが、どのような過程を経て精製されたかを示すため、便宜的に名前に色が冠されます。グリーンは精製過程でCO2を排出しなかった水素、ブルーは排出したがそのCO2を回収した水素、グレーは排出し、そのCO2を大気中に放出した水素です。

プラチナが装置の電極部分に用いられて精製される水素は、「グリーン水素」という、最も環境にやさしい水素です。また、FCVは走行時にCO2を排出しない(水を排出する)次世代自動車として、EVなどと同じように注目されています。

ウクライナ危機が発生し、石炭、原油、天然ガスといった化石燃料の調達環境が複雑になったことで、同燃料の需給がひっ迫している地域があります。このため、「脱炭素」が後戻りしてしまうのではないかと、心配をする声が上がっています。

しかし、超長期的にみれば、世界的な「脱炭素」の流れは前に進み続けると、筆者は考えています。温暖化が進み、地球が住みにくい場所になることを望む人は、少ないはずだからです(戦争を仕掛けた人であっても、その地球に住んでいる)。

プラチナの需要は「脱炭素」の前進とともに、超長期視点で、増加していく可能性があります。これに伴い、プラチナ価格は、超長期視点で上昇する可能性があると、筆者は考えています。

銀の「太陽光発電向け需要(photovoltaics)」がそうであったように(2010年ごろまで、統計内で、存在すらなかったものの、近年、需要が増加して主要な項目の一つに追加された)、プラチナの統計でも、脱炭素関連需要の項目が追加される日が来るでしょう。

図:プラチナの「新しい常識」
図:プラチナの「新しい常識」

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。