[Vol.998] 実態なきインフレと金相場

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。62.14ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反落などで。1,867.00ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。21年09月限は13,405元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年07月限は411.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで665.8ドル(前日比14.1ドル縮小)、円建てで2,330円(前日比15円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月20日 19時20分頃 先限)
6,547円/g 白金 4,217円/g
ゴム 247.1円/kg とうもろこし 33,590円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「実態なきインフレと金相場」

前回は、「価格上昇=需要増加にならない?」として、銅や石油の需要が2020年11月ごろから減少・横ばいになっているにも関わらず、コモディティ(商品)価格全般が高止まりしている「実態なきインフレ」について、筆者の考えを述べました。

今回は、「実態なきインフレと金相場」として、「実態なきインフレ」と金相場の関係について、筆者の考えを述べます。

「実態なきインフレ」をはじめとしたさまざまなインフレを、金(ゴールド)市場の動向を考える上で重要な、筆者が提唱する6つのテーマにあてはめてみます。

以下の通り、「インフレ」は、全体的には金(ゴールド)相場の上昇要因になり得るものの(図内の○)、部分的には下落要因にもなり得ます(図内の△や▲)。

物の本には、インフレは金の上昇要因と書かれていますが、景気が好転しつつある中で、物価が上昇するムードが生じる「インフレ期待発生時」や、実際の需要増加という「実態をともなったインフレ発生時」は、楽観論や株高などが起こりやすく、有事のムードが後退したり、株の代わりに金を保有する妙味が低下したりして、金の上昇要因が弱まる、もしくは下落要因が強まることがあります。

また、インフレ(物価高)というキーワードが盛んに報じられるようになると、期待・懸念の思惑の方向性や、実態の有無にかかわらず、物価を調整する役割を担う中央銀行(日本では日本銀行、米国であればFRB(米連邦準備制度理事会))が、金融引締め策を実施する可能性が生じます。

金融引締め策では、法定通貨の金利を引き上げたり、資産の買い入れ額を縮小したりするため、法定通貨に対する金の相対的な保有妙味が低下する(金相場の下落要因が生じる)ことがあります。このため、中央銀行というテーマにおいては、どのようなパターンであれ「インフレ」は、下落要因になり得ます。

ただ、程度の問題で言えば、「実態なきインフレ」の場合が、最も下落圧力が小さくなると考えられます。需要を伴わない実態なきインフレの場合、中央銀行が市中で起きている事象を「インフレ」と認識せず、金融引き締めを行わない可能性があるためです。現在のように、金融緩和を実施している場合は、金融緩和を停止しない(金融緩和が続く)可能性があります。金相場としては、下落要因の一つを回避することにつながります。

以前の「昨年末から銅需要はやや減少中」で述べたように、足元、銅と石油の需要に頭打ち感が生じている中で、価格が上昇する「実態なきインフレ」状態にあっては、金相場は、中央銀行からの下落圧力を軽減しつつ、重要6テーマの複数から、上昇圧力を受けやすくなっていると、筆者は考えています。

目先、「期待先行」「実態なきインフレ」などの状況が続けば、金相場は上値を伸ばす可能性があると考えています。具体的には、2020年8月年につけた1トロイオンスあたり2,000ドルが、中長期的な目標になると、考えています。

図:各種インフレと金市場の重要テーマの関係


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。