[Vol.1691] 「出し渋り」懸念で価格は長期上昇か

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。80.65ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,170.85ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。24年05月限は14,510元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年05月限は627.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1263.45ドル(前日比8.25ドル縮小)、円建てで6,177円(前日比39円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月22日 16時33分時点 6番限)
10,550円/g
白金 4,373円/g
ゴム 329.5円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス

出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「『出し渋り』懸念で価格は長期上昇か」
前回は、「プラチナはあの呪縛から解き放たれた」として、プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移について述べました。

今回は、「『出し渋り』懸念で価格は長期上昇か」として、プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移について述べます。

前回述べた長期視点の需要増加要因のほか、長期視点の供給減少要因もあります。V-Dem研究所(スウェーデン)が毎年公表する「自由民主主義指数」(Liberal democracy index)に、その一端を見ることができます。

同所は、選挙制、自由主義、参加型、熟議型、平等主義をはじめとしたさまざまな分野の民主主義の度合いを数値化する活動を続けています。この中の自由主義に関わるデータが同指数です。

同指数は0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど自由で民主的な度合いが低く、1に近ければ近いほどその度合いが高いことを示します。以下の図はプラチナの主要鉱山生産国の同指数の推移です。1990年代前半、旧ソ連崩壊によってロシアで、アパルトヘイト政策の廃止によって南アフリカで、自由で民主的な傾向が強まりました。

この時、南アフリカの同指数は0.7台に肉薄し、同国が先進国並みに民主的になったことが示されました。2010年にアフリカ大陸で初めてサッカーのワールドカップが開催されたことは、同国が民主主義を正義とする西側諸国の考えに強く順応し始めたことを示唆しています。

しかし、「[Vol.1686] 世界大分断で金(ゴールド)長期上昇へ」で触れた通り、2010年ごろ、世界の民主主義は曲がり角を迎えました。西側がリーマンショック後になりふり構わず進めてきた環境問題や人権問題への対応や、世界的なSNSの普及が一因で生じた民主主義の行き詰まりなどがきっかけとなり、世界分断の深化が始まりました。

こうした流れはプラチナの主要鉱山生産国の同指数の低下を先導しました。一時は0.7台に迫った南アフリカの同指数は0.6を割れ、ジンバブエも0.2台から0.17台に低下、ロシアに至っては0.06台まで低下しています。

この3カ国のプラチナの鉱山生産シェアは合わせて91.6%です。内訳は南アフリカが70.5%、ジンバブエが9.1%、ロシアが12.1%です(いずれも2023年 WPICのデータより)。

自由民主主義指数をもとに考えれば、ジンバブエとロシアは自由で民主的な度合いが大変に低い国です。南アフリカは今のところ辛うじて0.5という中間ラインを上回っているものの、2010年ごろ以降、長期視点の低下傾向は続いており、このままいけば中間ラインを割ってしまいそうです。つまり今まさに、プラチナの主要鉱山生産国たちの非民主化が進行しているのです。

非民主化が進行すると何が起きるのでしょうか。例えば原油の減産が何のために行われているのかを想像すると、原油価格を高止まりさせることだけでなく、民主的な国家がほとんどの西側に有利にならないようするための「出し渋り」という意味があります。プラチナにおいても今後、非民主化が進行している非西側の主要鉱山生産国による「出し渋り」が懸念されます。

西側と非西側の分断が解消しない限り、非西側の「出し渋り」は終わらないでしょう。分断を解消するためには、まずは西側が非西側を追い込んだ「環境問題」「人権問題」において一定の譲歩をする必要があると筆者は考えています。ですが、西側がこのような譲歩をすることはできないでしょう。すでにこれらの問題解決のために莫大な資金を投じてきたためです。

分断は長期化する可能性があります。このことはプラチナの需給を長期的に引き締める材料になり得ます。これにより、急騰ではない長期視点のゆっくりとした価格上昇がみられると筆者は考えています。

こうした値動きは「[Vol.1688] 運用上の横揺れ対策は『長期低迷銘柄も』」で述べた、「長期低迷銘柄」「動じない存在」としてのプラチナの存在感を強め、引いては株式や株式に連動する投資信託・ETFをメインに運用をされている投資家に、「横揺れ」への備えの機会を提供することが期待できると、筆者はみています。

図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数
図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数

出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。