[Vol.1766] 「SNSとESGが世界分断の一因」に納得感あり

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。81.00ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,378.80ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年09月限は14,655元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年08月限は614.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1379.65ドル(前日比11.40ドル拡大)、円建てで7,192円(前日比160円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(7月10日 大引け時点 6番限)
12,322円/g
白金 5,130円/g
ゴム 324.3円/kg
とうもろこし 38,300円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「『SNSとESGが世界分断の一因』に納得感あり」
前回は、「2022年の金(ゴールド)国際相場は『上昇』」として、2022年の金(ゴールド)国際価格下落の背景を確認しました。

今回は、「『SNSとESGが世界分断の一因』に納得感あり」として、自由民主主義指数(2023年)を確認します。

[Vol.1764] 『株高』に不安を感じる個人投資家の方々」で述べたイベント内の小規模会場での講演で、皆さまの目が最もスクリーンにくぎ付けになったのが、以下のスライドを示した時でした。金(ゴールド)市場に大きな影響力を持つ中央銀行が、2010年以降毎年、金(ゴールド)の保有高を増やしている背景に世界分断があることを説明していた時でした。

V-Dem研究所(スウェーデン)は毎年、世界各国の民主主義の状況を数値化して多数の関連する指数を公表しています。上記の自由民主主義指数もその一つです。青が濃ければ濃いほど自由で民主的な度合いが高く、オレンジが濃ければ濃いほど自由で民主的な度合いが低いことを意味します。

日本に住んでいるとほとんどその感覚はありませんが、率直に言って今、世界は分断状態にあります。自由と民主主義を正義とする欧米が中心の西側と(日本を含む)、そうでない非西側の間に明確な分断が生じています。人口シェアで言えば、前者が17%、後者が77%と、圧倒的に自由で民主的な度合いが低い国が優位です。

同指数の推移を確認すると、世界分断が目立ち始めたのは、2010年ごろからでした。そして中央銀行の買い越しが始まったのも、2010年ごろからでした。

筆者は講演で、中央銀行が金(ゴールド)の保有高を増やし続ける背景にある、世界に不安をもたらす「世界分断」は、2010年ごろから目立ち始めた「ESG」と「SNS」が一因で生じた可能性があると説明しました。

西側がESG(環境、社会、企業統治)を進める中で、非西側に配慮を欠いた場面があったこと(一方的すぎる石油否定)や、民意がSNS上で濁流と化し、大規模な選挙で民主的とは言い難い結果になったり(2016年の米大統領選、BREXITなど)、武力によって複数の国家が転覆したり(アラブの春)して民主主義の行き詰まりが目立ったことを考えれば、ESGとSNSが世界分断の一因であることを否定することはできません。

世界分断が金(ゴールド)価格だけでなく、原油、食品、非鉄金属などの価格を押し上げ、世界的なインフレを加速させています。世界分断を解消するためには、ESGとSNSを人類から取り上げることが有効ではあるものの、これまで莫大(ばくだい)な投資を続けてきたESGを止めたり、インフラと化したSNSを使わないようにしたりすることはできないと考えられます。

これにより今後も、世界分断をきっかけとした中央銀行の買い越しが続き、長期視点で金(ゴールド)相場が上昇する可能性があると述べました。

講演後、複数の方から直接、世界分断について理解が深まった旨、お言葉をいただきました。「世界全体の視点はこれまでなかった」という趣旨の言葉もありました。世界全体の視点は、金(ゴールド)や原油などのコモディティだけでなく、米国や日本の株式の分析でも重要であると、筆者は考えています。

図:自由民主主義指数(2023年)
図:自由民主主義指数(2023年)
出所:V-Dem研究所および国連のデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。