先物手口情報とは?
配信元:みんかぶ先物 著者:MINKABU PRESS

先物手口情報とは?

先物手口情報が教えてくれること~ 初心者のためのデリバティブ取引ことはじめ

1.証券会社の注文状況を示す「先物手口情報」

手口情報とは、株式取引や先物取引など証券取引所の売買において、「どの証券会社」が「どの銘柄」に、「どれだけの売り」または「買い」を行ったかを知ることのできるデータです。「日経225先物・オプションの手口情報」については、日本取引所グループ(JPX)が手口を証券会社ごとに集計し、毎日午後5時過ぎにホームページに公開しています。「みんかぶ先物」の各商品ページでは、日々公開された手口の内容を掲載しています。

【参考】みんかぶ先物 日経225先物手口情報
https://fu.minkabu.jp/chart/nikkei225/volume

過去には取引所から個別株の手口情報も公開され、証券会社内に限ってリアルタイムで見ることができました。しかし、さまざまな議論を経て2003年以降は非公開となっています。よく新聞やニュースなど報道で「海外投資家の買い(売り)により株価が上昇(下落)」などと聞くことはありますが、それは証券会社が自社の手口情報をベースにして推測していることが多いようです。

日経225先物(2020年6月限)取引参加者別手口情報(4/16〜6/5)
  ナイト・セッション 日中取引
  売り 買い 差し引き 売り 買い 差し引き 売り 買い 差し引き
JPモルガン証券 104 287 183 2,381 4,390 2,009 2,485 4,677 2,192
シティグループ証券     0   1,185 1,185 0 1,185 1,185
ゴールドマン・サックス 18 609 591 1,993 2,202 209 2,011 2,811 800
大和証券   46 46 651 1,254 603 651 1,300 649
SBI証券 2,925 3,350 425 3,447 3,465 18 6,372 6,815 443
メリルリンチ日本証券 595 457 -138 1,690 2,216 526 2,285 2,673 388
auカブコム証券 581 514 -67   409 409 581 923 342
HSBC証券     0   310 310 0 310 310
日産証券 360 707 347 805 723 -82 1,165 1,430 265
UBS証券 150   -150 1,111 1,460 349 1,261 1,460 199
東海東京証券 5   -5   100 100 5 100 95
マネックス証券 374 424 50     0 374 424 50
岡三証券 109 154 45     0 109 154 45
バークレイズ証券 86   -86 764 866 102 850 866 16
ライブスター証券 69 74 5     0 69 74 5
ドイツ証券     0 512 468 -44 512 468 -44
松井証券 954 958 4 1,376 1,325 -51 2,330 2,283 -47
三菱UFJモルガン     0 818 763 -55 818 763 -55
GMOクリック証券 272 301 29 445 360 -85 717 661 -56
楽天証券 1,676 1,830 154 2,187 1,972 -215 3,863 3,802 -61
インタラクティブ証券 68   -68     0 68 0 -68
野村證券 1,175 318 -857 2,883 3,599 716 4,058 3,917 -141
クレディ・スイス証券 188 476 288 1,064 423 -641 1,252 899 -353
モルガン・スタンレー 196 162 -34 1,710 1,287 -423 1,906 1,449 -457
フィリップ証券     0 495   -495 495   -495
ソシエテ・ジェネラル 8,085 8,090 5 18,766 18,076 -690 26,851 26,166 -685
みずほ証券 347 439 92 3,223 2,290 -933 3,570 2,729 -841
BNPパリバ証券 15 51 36 2,252 1,346 -906 2,267 1,397 -870
ABNアムロクリア 18,436 17,638 -798 23,875 22,093 -1,782 42,311 39,731 -2,580
※J-NET取引(立会外)含む。
メリルリンチ日本証券はビーオブエー証券、ライブスター証券はSBIネオトレード証券に社名変更。
出所:日本取引所グループ(JPX)資料より集計
ポイント①
先物・オプション取引の証券会社の手口情報はJPXが日々公開している

2.先物市場のメインプレイヤー「海外投資家」

先物市場の動向は、現物株のマーケットにも大きな影響を与えます。先物を運用するファンドの動きを手口情報から推測することで、今後のマーケットの方向性を占うことができます。

先物市場の参加者は、豊富な運用資金を抱える証券会社や国内外の機関投資家といった大口投資家が中心であり、特に注目されるのが海外投資家の動向です。彼らは株式の現物市場で売買代金の約6割のシェアを占めるメインプレイヤーですが、株式の先物市場では7~8割のシェアを占めており、さらに大きな影響力を持っています

海外投資家と言っても、年金や政府系ファンドなどの長期投資家も存在しますが、特に注視すべきは、短期の売買を繰り返すヘッジファンド(hedge fund)の存在です。

ポイント②
先物市場の7~8割のシェアを占める「海外投資家」のうち、ヘッジファンドの動向が重要視される

3.「売り」と「買い」を短期で繰り返す「ヘッジファンド」

ヘッジファンドとは、さまざまな取引手法を駆使し、相場の上げ下げに関係なく利益を追求することを目的としたファンドのことを言います。一般的なファンドは運用方法に制限がありますが、ヘッジファンドは先物取引などのデリバティブや借株による現物株の空売りを活用するなど比較的自由な運用スタイルで、リスクをヘッジ(回避)しながらも、アグレッシブな運用を基本としています。

また、ヘッジファンドには一般の投資家が投資することはできません。私募形式で機関投資家や一部の富裕層などの限られた人しか投資できない「私募ファンド」なのです。通常、最低投資金額は100万ドルとも言われ、普通の投資信託と比べると投資額が非常に大きく、運用担当者は自分の資金も投資していることが一般的です。運用益の20%以上という高い成功報酬を得るファンドもありますが、最近は競争が激しく成功報酬は低下傾向にあるようです。

先物取引において、参加者は大きく三つに分類することができます。それは現物株の値下がりリスクを先物の売りでヘッジする「ヘッジャー」と、利ザヤを追求する「スペキュレーター」、そして複数市場間の価格差などから利益を得ようとする「アービトラージャー」です。もちろん、ヘッジファンドは「スペキュレーター」に属しますが、株式先物売りと債券先物買いを組み合わせた取引や、さらに為替を組み込んだ取引など、多彩な戦略を駆使します。

ポイント③
ヘッジファンドはデリバティブや借株などを積極的に駆使し、利ザヤを追求することを目的としていることが多い

4.トレンドフォローを採用する「CTA」の動向がカギ

近年注目を集めているのがヘッジファンドの一種である「CTA(Commodity Trading Advisor)」と呼ばれる「商品投資顧問」の存在です。「商品」といいますが、原油などの商品先物だけでなく、株式や債券、通貨、金利といった金融商品の先物の取引も行います。

特徴的なのが運用スタイルです。ファンダメンタルズを考慮せず、マーケットの値動きを統計的に処理することでトレンドを解析、テクニカルポイントを突破した時点で流れについてく「トレンドフォロー」戦略を採用しています。そして、抱えたポジションをトレンドが反転するまで持ち続けるといった作業をプログラム売買で行います。

CTAの運用額は日本円にして数十兆円とも言われ、株式市場が大きく動いた時にはCTAがポジションを変更したのではないか、と言われるほど非常に大きな存在となっています。こうしたことから先物手口情報をチェックする理由の一つとして、彼らの動きを推測するためのヒントが得られることが挙げられます。

ポイント④
CTAは膨大な運用資金を持ち、大きな相場の流れに乗る「トレンドフォロー」を主流とするヘッジファンド
ポイント⑤
先物手口情報からCTAの動向を読み解くことが重要

5.「先物手口情報」から相場の先行きが読み解ける

前出の「日経225先物(2020年6月限)取引参加者別手口情報」の表は、JPXから開示された手口情報をまとめたものです。JPXのデータには、国内外の証券会社ごとの日々の日経225先物の「ナイト・セッション(夜間取引)」と「日中取引」、「立会取引」と「J-NET(立会外)取引」それぞれの「買い」、「売り」の枚数が記載されています。

この表では「立会取引」と「J-NET(立会外)取引」を合わせた数字にしていますが、「ナイト・セッション」と「日中取引」を合わせた1日の合計では、例えばゴールドマン・サックスの買いが2811枚、売りが2011枚、差し引きで800枚の買い越し、ということになります。ここから何をチェックしていけばよいのでしょうか。

まずは「極端なポジションがないか」を見ます。日経225先物には限月の第2金曜日という決済期限があり、「買い(売り)ポジションは今後の売り(買い)圧力」になります。そのため、極端にポジションが偏っている場合には、将来の反対売買が要注意となります。手口情報だけでなく、同じくJPXから開示されている「取引参加者別建玉残高一覧」も併せて活用するとよいでしょう。

【参考】取引参加者別建玉残高一覧:日本取引所グループ
https://www.jpx.co.jp/markets/derivatives/participant-volume/index.html

次に「過去と比べて大きな手口の変動がないか」をチェックします。重要なイベントの前日だけでなく、何もない日でも手口が大きく動くことがあります。例えば、株式相場が上昇しているにも関わらず、異常なほど大きな売り手口がみられる場合などです。短期筋の仕掛けの可能性もあり、目先の相場が荒れるシグナルになることがあります。

先物手口情報推移(差し引き)
ポイント⑥
極端な手口やポジションをチェックすることで「相場の先行き」を占うことができる

6.「大きなトレンドの発生」を予測させるCTAの動き

CTAの動向をチェックするために、証券会社ごとの特徴を把握することも重要です。世界経済の動向を見極めて有望市場に投資する「グローバルマクロ」という運用スタイルを採用するヘッジファンドの顧客が多いのは、ゴールドマン・サックスやシティグループ証券、JPモルガン証券などと言われています。特にゴールドマン・サックスはダイナミックな手口も多く、相場への影響度も大きいようです。

ビーオブエー証券(旧メリルリンチ)は長期投資志向の顧客が多いのが特徴です。ABNアムロやソシエテ・ジェネラルは割高な証券を売り、割安な証券を買う「アービトラージ(裁定取引)」を行っていることが多いと見られています。アービトラージは非常に多くの枚数を取引しますが、売りと買いを同時に同じ金額で行うので市場に対する影響度はそれほど高くありません。

そして、CTAからの注文が多いとされているのが、クレディ・スイスやモルガン・スタンレーです。マーケットで非常に大きな力を持ち、かつ大きな相場の流れに乗る「トレンドフォロー」を採用するCTAの動きを推測することで、大きなトレンドの発生の予兆を捉えることができます。

先物手口に登場する主な証券会社の特徴
区分 本拠地 証券会社 主な顧客の特徴
外資系 米国 ゴールドマン・サックス グローバルマクロ
米国 シティグループ証券 グローバルマクロ
米国 JPモルガン証券 グローバルマクロ
米国 ビーオブエー証券 長期投資志向
オランダ ABNアムロ アービトラージ(裁定取引)
フランス ソシエテ・ジェネラル アービトラージ(裁定取引)
フランス BNPパリバ証券 アービトラージ(裁定取引)
スイス クレディ・スイス トレンドフォロー(CTA)
米国 モルガン・スタンレー トレンドフォロー(CTA)
香港 サスケハナ・ホンコン 高速取引業者(HFT)
国内系 日本 auカブコム証券 国内個人投資家(ネットトレーダー)
日本 GMOクリック証券 国内個人投資家(ネットトレーダー)
日本 SBI証券 国内個人投資家(ネットトレーダー)
日本 楽天証券 国内個人投資家(ネットトレーダー)
日本 松井証券 国内個人投資家(ネットトレーダー)
日本 みずほ証券 国内機関投資家
日本 野村證券 国内機関投資家
出所:各種報道記事を参考に作成
ポイント⑦
顧客層の違いにより証券会社の手口にはそれぞれ特徴がある
ポイント⑧
CTAの注文を反映する「クレディ・スイス」などの手口から大きなトレンドを予測することができる

7.まとめ

  • (1)先物の手口情報はJPXが日々公開しており、ホームページから確認することができます。
  • (2)海外投資家は先物市場の7~8割のシェアを占めるメインプレイヤー。中でも特に存在感が大きいのは、短期売買を繰り返す「ヘッジファンド」です。
  • (3)先物手口情報で「極端なポジションや売買」があった場合は要注意です。
  • (4)トレンドフォローのCTAの動きを把握することで、大きなトレンドを予測することができます。
  • (5)証券会社の手口にはそれぞれ特徴があり、CTAからの注文はクレディ・スイスなどが多いとされています。
ワンモアLesson

「手口情報と併せて使いたい建玉残高一覧情報」

JPXのホームページでは日々の先物手口情報である「取引参加者別取引高(手口上位一覧)」だけでなく、原則毎週月曜日の午後(3時30分をメド)に、証券会社ごとの先物保有枚数(建玉)を一覧にした「取引参加者別建玉残高一覧」も開示しています。前週末における証券会社の建玉=ポジションを確認できるこのデータは、実は先物の需給を分析するうえで、日々の手口情報以上に重要な内容となるのですが、週1回の公表ということで速報性はありません。

しかし、直近の「取引参加者別建玉残高一覧」と日々の先物手口情報を合わせて使うことで現在の建玉を概算することが可能です。例えば「取引参加者別建玉残高一覧」で、ある証券会社の週末金曜日時点の建玉が5189枚の買い越しであったとします。次に発表されるデータは翌週金曜日のものとなりますが、先物手口情報を使えばその間の建玉の変化を追うことができるのです。

先物手口情報で週明け月曜日に100枚売り越し、火曜日に200枚買い越しだとしたら、火曜日現在の建玉は「5189枚-100枚+200枚」で5289枚の買い越しであることが推測されます。現在の日経平均株価が2万2600円だとすると、算出した建玉にこれをかけると買い越し金額は1195億円と試算することができ、大きなポジションを持っていることも分かります。

日々の先物手口情報を分析に加えれば、建玉に大きな変化が生じた場合もタイムラグなくその動きをキャッチできるようになるのです。

このコラムの著者

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