株価指数オプションの仕組みを理解しよう~ 初心者のためのデリバティブ取引ことはじめ
これまで見てきた「先物取引」と「オプション取引」は同じデリバティブ(金融派生商品)ではありますが、先物取引は「将来の一定期日に、あらかじめ取り決めた価格で、『原資産』を売買することを約束する取引」であるのに対して、オプション取引は「あらかじめ定められた期日に、あらかじめ定められた価格で、原資産を『買う・売る権利』を売買する取引」であり、全く別の金融商品となります。
もっとも、原資産が日経平均株価である「日経225先物」と「日経225オプション」を比較すると、似ている点も多いと言えます。どちらも大阪取引所で取引されており、取引時間は「日経225先物」の方が、スタートが若干早いものの、ほぼ同じといえます。両商品ともに各限月のSQ(各限月の第2金曜日)の前営業日が取引最終日となります。
取引単位も同じく1000倍ですが、呼値は「日経225オプション」はプレミアムの金額によって細かく設定されています。ただし、1000円超でみれば10円と変わりません。また、どちらも「先物・オプション口座」の開設が必要で、税金も課税方式が「申告分離課税」の「雑所得」で税率は20.315%になります。
日経225先物 | 日経225オプション | ||
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取引市場 | 大阪取引所 | ||
取引時間 | 日中:8時45分~15時15分 ナイトセッション :16時30分~翌日6時 |
日中:9時00分~15時15分 ナイトセッション :16時30分~翌日6時 |
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原資産 | 日経平均株価 | ||
取引内容 | 将来の一定期日にあらかじめ取り決めた 価格で「原資産」を売買することを約束 する取引 |
あらかじめ定められた期日にあらかじめ定められ た価格で「原資産を買う・売る権利」を売買する 取引 |
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呼値 | 10円 | 100円以下 1円 100円超 5円 |
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取引単位 | 1000倍 | ||
必要証拠金 |
買う時:必要 売る時:必要 |
買う時:不要 売る時:必要 |
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取引最終日 | SQ(3月・6月・9月・12月の各限月の第 2金曜日)の前営業日 |
SQ(毎月の各限月の第2金曜日)の前営業日 | |
理論価格 (金利、配当除く) |
日経平均株価 | 「本質的価値(権利行使価格、日経平均株価)」 + 「時間的価値(満期までの期間+ボラティリティ」 |
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取引口座 | 先物・オプション口座 | ||
税金 | 税率 | 20.315% | |
所得の種類 | 雑所得 | ||
課税方式 | 申告分離課税 |
「先物取引」と「オプション取引」は収益特性も異なります。原資産価格が2万円の時に、「先物」を2万円で買った場合と、権利行使価格2万円のコールオプションを500円で買った場合を比較します。
両商品ともに満期日まで持ち越し、清算値が2万2000円と現在より上昇した場合、「先物」の利益は+2000円(決済売値2万2000円-買値2万円)、「オプション」は+1500円(決済売値2万2000円-権利行使買値2万円-プレミアム500円)となり、「先物」に比べて「オプション」はプレミアム分だけ利益が目減りします。
では、清算値が1万8000円に下落した場合はどうでしょうか。「先物」の損失は-2000円(決済売値1万8000円-買値2万円)となりますが、「オプション」は損失の場合は権利放棄することができますので、プレミアム分-500円の損失で済むことになります。このように、オプション取引(コールの買い)は、原資産が下落しても損失が限定的になる、という点が先物と異なります。
「オプション」は、満期日に近づけば近づくほど価値が目減りし、ボラティリティ(価格変動率)が高まるほど価値が増すという「時間的価値」も特徴の一つです。例えば、日経平均株価が2万円の時に「日経225先物」を2万円で1枚買い、「オプション」では権利行使価格2万円のコールオプションを500円で1枚買い、満期日前に反対売買するとします。
1ヵ月後に日経平均株価が1万8000円に下落すると予想した場合、「日経225先物」は日経平均株価にほぼ連動した値動きになりますので、評価損は-200万円{(1万8000円-2万円)×1枚×1000倍}となることが試算されます。
「オプション」の場合は、原資産価格と権利行使価格の差額である「本質的価値」は満期日に権利を放棄することができるためゼロになりますが、「時間的価値」は、1ヵ月後のボラティリティが読めないため、含み損を正確に試算することが非常に困難です。
ただし、日本取引所グループ(JPX)が公開している「オプション価格計算ツール」を使用すれば、概算ではありますが、初心者でも簡単にシミュレーションすることができます。
「オプション価格計算ツール」の使い方を説明します。まず画面上のタブで①「日経225オプション」をクリックします。次に②「限月」と③「権利行使価格」、④「オプション価格」をインプットすると「先物価格」や「取引最終日」など他の項目も自動で入力され、画面下の⑤「上記内容で計算する」をクリックすると下記のような画面が現れます。
※③の右側にある「先物価格」のところには、自動的に現在価格が入力されますが、その値は上の想定価格(日経平均株価2万円)と異なりますので、ここでは便宜上「20000」円と入力しています。また④の「オプション価格」は、コールとプット両方の価格を入力する必要があります。しかし、上の想定価格ではコールしか決まっていませんでしたので、便宜上プットも同じ価格の500円と入力しています。
計算の結果、先物価格が2万円で権利行使価格2万円のコールの価格が500円のとき、インプライドボラティリティは14.32%であることが分かります。これを画面下の表でみると、ボラティリティが14%程度で現状と変わらない場合、日経平均株価が1万8000円に下落したときのコールオプション価格⑥は20円となり、およそ▲48万円{(20円-500円)×1枚×1000倍}の含み損となることが予測できます。
※画面下の表における縦軸の先物価格は当初100円刻みですので、これを500円刻みに修正しています。修正方法は⑥の左上に位置する先物価格を100円から500円に変更しました。同様に表における横軸のボラティリティも当初は1%刻みですが、これも修正することができます。修正方法は⑥の上に位置するボラティリティを1%から好みの刻み値に変更します。
「先物取引」は原資産価格が上昇するか、下落するかの二択を選択し、思い通りになれば利益になり、そうならなければ損失になります。しかし、「オプション取引」では上記の二択だけでなく、コール・プットの買い・売りのオプションを組み合わせることで「原資産価格が上下どちらでも大きく動けば利益になる」ポジションや、「原資産価格が動かなくても利益になる」ポジションを構築することができるなど、「先物取引」では実現できなかったような損益図が可能になります。
代表的なのが、「ロング・ストラドル」、「ショート・ストラドル」です。ストラドルとは「両足を開いてまたがる」という意味ですが、下のグラフの合成ポジションの形をみれば一目瞭然です。
「ロング・ストラドル」は現時点では相場が膠着状態ですが、今後上下どちらかに大きく動きそうなときに使います。
同限月で権利行使価格が同じ「コールの買い」と「プットの買い」を同枚数保有します。具体的な例をあげると、日経平均株価が2万円のとき、権利行使価格2万円の「コールをプレミアム500円で1枚」と「プットをプレミアム500円で1枚」を買います。
相場が上昇した時にはコールオプションを行使することができ、下落した場合にはプットオプションを行使することができるため、日経平均株価が2万1000円より上昇したとき、もしくは1万9000円より下落したときに利益が出る損益図になります。仮に相場が思ったほど動かず1万9000円から2万1000円の間に収まったとしても、損失は最大でプレミアムの合計である1000円に限定されます。
「ショート・ストラドル」は今後も相場が大きく動かず、一定のレンジ内で推移しそうな時に使います。
同限月で権利行使価格が同じ「コールの売り」と「プットの売り」を同枚数保有します。具体的な例をあげると、日経平均株価が2万円のとき、権利行使価格2万円の「コールをプレミアム500円で1枚」と「プットをプレミアム500円で1枚」を売ります。
プットとコールの両方からプレミアムを得ることができるポジションとなりますので、相場が動かず1万9000円から2万1000円の間に収まったときに利益になります。しかし、日経平均株価が2万1000円より上昇したとき、もしくは1万9000円より下落したときには損失になり、さらに上下どちらかに大きく動いてしまった場合には損失リスクが無限大になります。
何らかのショック安で売りが売りを呼ぶ展開になるなど、先物価格が急激に変動した時、取引所によっては一時的に取引が中断される「サーキットブレーカー」が発動されることがあります。取引を10分間以上中断し、投資家に冷静になってもらうことが目的です。
1987年10月19日の「ブラックマンデー」をきっかけとしてニューヨーク証券取引所で始まった制度で、日本では1994年2月14日に導入されました。発動条件は、①中心限月において、制限値幅の上限(下限)値段に1分間はりついた場合、②制限値幅の上限(下限)値段で約定後、1分間、上限(下限)値段から一定値幅の範囲内で約定した場合があります。
日経225先物は通常の制限値幅が8%ですが、「サーキットブレーカー」が発動される度に制限値幅は拡大され、第1次拡大制限値幅が12%、第2次拡大制限値幅が16%となります
日経225オプションにおける通常の値幅制限は、基準値段50円未満が4%、50~200円未満が6%、200~500円未満が8%、500円以上が11%ですが、第1次拡大は通常時制限値幅に3%を上乗せ、第2次拡大時は第1次拡⼤時の制限値幅にさらに3%を上乗せしたものになります。
過去には、国内で2008年のリーマン・ショック時、2011年の東日本大震災などの際に、日経225先物の「サーキットブレーカー」が発動されました。直近では2020年3月のコロナショックにより米国市場で発動されたことも記憶に新しいところです。
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